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【ヘタリア】無題1【腐向け?・ルーギル】

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「お前のものは俺のものだ」

兄さん、俺は昔から、貴方のそんなところが嫌いだった。

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俺の兄は、自分が欲しいと思ったものには、他人のものでも遠慮なく手を伸ばす人だった。
弟である俺もまた、幾度となく被害を被ってきた。しかし最近は目に見えて、その頻度が増えてきた。

「兄さん、また勝手に俺の服を使ったな!」

そう、こんなことは日常茶飯事。
楽しみにとっておいたヴルストを食われるなどはよくあることで、
気に入りの懐中時計を無断で使われたうえに失くされたり、
新品のシャツにとれないしみをつけて返されたこともあった。
そのたび叱りつけても、本人は全く懲りないのだから困ったものだ。

「そんなに怒るなよ、お前のものは俺のもんだろ?」

なぁルツ?などと悪びれもせず、ケセセと笑ってみせる。
そんな彼に、俺はくらり、と眩暈を感じた。
まったくこの人は真面目にまだそんなことを言っているのだろうか。
俺のことを一体なんだと思っているのだろう。
確かに子どものころ、俺のものは全て兄から与えられたものだった。
しかし、大人になった今は違う。
自分の回りにあるものは、自分で働いて、自分で選んで、自分で手に入れたものだ。
それをないがしろにすることは、兄が俺の自立を軽んじることを意味しているように思えた。
自分を育ててくれたことには感謝するが、それを盾にいつまでも同じ気分でいられては困る。
実際、今は炊事に洗濯にと生活に必要な色々を兄は俺に頼っているのだ。
そのくせ、こういうときだけ兄貴風を吹かせてくる彼が、正直腹立たしくて仕方が無い。

「…いい加減にしろ、」
「ルツ?」

いつもとは違う俺の様子に、兄は戸惑いを見せた。
なんだ、貴方は俺が全く反抗しないとでも思っていたのか?。
俺はぎゅっと拳を握り締めた。そう、この手は兄よりもずっと大きくなったはずだった。

「もう嫌だ。俺は子どもじゃない、貴方の所有物じゃない…!」
「ルツ、」

焦るように伸ばされた、俺よりも小さな兄の手を、俺は反射的に振り払った。
そして、なだめすかそうとする声に被せるようにして、叫んでいた。

「衰えるのが不安だからといって、依存しないでくれ!…迷惑だ…っ」

ひゅっと、鋭く息を呑む音が聴こえた。
それが彼のものだったのか、あるいは自分のものだったのか、混乱した頭ではまともに理解することはできなかった。
少なくとも俺が認識できたのは、先ほどまで頭に昇っていた熱い流れが、さっと足元まで落ちたことだけだった。

「あ…ちが…」

とっさに否定の言葉が口をついた。
首を横に振りながら、俺は一歩退いた。動揺のあまりか、ぐらりと景色が傾く。しかし、なんとか踏みとどまった。
そうしてこめかみに手を当て、首を振った。
違う、こんなことを言いたかったんじゃない。全力で否定しなければ、と焦る一方で、けれど俺は同時に気づいてしまった。
咄嗟に紡いだ自分の言葉に、きっと核心があったことを。
そう、兄は不安だったのだ。俺が国として力をつけていく一方で、彼はただただ衰えるしかなかった。
俺と彼とは、そういう運命だった。
勝手に俺のものを借用する行為は、思えば彼なりの足掻きだったのかもしれない。
兄としての立場の誇示しようとしたのかもしれない、俺を通して世界との繋がりを強めようとしたのかもしれない。
あるいはただ単に俺の存在を近くに感じることで、不安を拭い去ろうとしていたのか。恐らく、そのどれもが間違ってはいない。
ああ、何故今更理解してしまったのだろう。
それを迷惑だなどと罵ったあとに。

「ち、…違う、違うんだ、兄さん、俺は…」

弁明しようとして、けれど言葉が続かない。わかっていた、今は何を言っても苦しさが増すばかりなのだと。
それでもどうにかしたいと足掻くうちに、頭は焦燥で支配され、おかげで視機能が危うくなる。
目の前で立ち尽くす彼の表情が、真夏の陽炎の向こう遮られるようにあやふやになる。
いや、そうじゃない。本当はただ怖いだけだ、大切な人を傷つけたことが。それを直視することが。

「ルートヴィッヒ」

兄が俺の名を呼んだ。愛称ではなく、本当の名前で。
びくり、と体が震えた。まるで、叱られる子どもみたいに。
ああ、なんだ、と俺は場違いにも笑いたくなった。
結局は何も変わっていないのか。名前一つ呼ばれただけで自分の幼さを思い知る。
ますます先の暴言を悔やんだ。あんなことを言える、立派な弟ではなかったのだ、俺は。
けれど、そうした感情が表情や言葉として発露する前に、兄は再び口を開いた。

「お前が正しい。悪かった。」

はっと、顔を上げた。ようやくまともに見た兄は、微笑んでいた。
凪いだ、彼らしくない笑みに、俺は頭を殴られたような衝撃を覚えた。

彼はいつだって、しぶとくて、高慢だった。だからこそ、こんなにあっさりと全て諦めてしまう彼が信じられなかった。
ふざけるなと鬼のような形相で威勢よく殴りかかってくればよい。
そうすれば、俺は安心できる。俺の見当違いだったのだと、少なくとも今だけは眼を瞑っていられる。
けれど、俺が差し出した自爆ボタンを彼は彼らしくもなく、潔く押してしまったのだ。

嗚呼、彼は間違いなく、消える。俺に食われる。

己の生い立ちからの運命、そして決して言葉に出されることがなかった未来図が、はっきりと示された。
遠い先の話だと、あるいはひとつの可能性だと、眼を逸らし続けていた事柄が、今目の前に。
呆然としていると、そっと頬に手が触れた。

「なんだよ、なに泣いてやがる」

泣いてなんかいない、と言おうとして、喉が詰まった。
瞬きをすると彼が触れていないほうの頬に熱い感触が掠めた。
そして、きっと俺に触れている彼の手の甲にも落ちたはずのそれに、ますます何もいえなくなる。

「……っ」
「おまえはやさしいな」

違う、そんなんじゃない。どうしてそんなことを言うんだ。これまで傷ついてきたのも、これから傷ついてゆくのも、全て貴方のはずなのに。
どうして、どうして、どうして。
自分の存在が彼を損なってしまう。そのことが、痛くて、辛くて、苦しくてどうしようもなかった。
先ほど、自分で吐いた言葉が内側で跳ね返って、その度に心のどこかが抉れて血が流れた。
そんな自分勝手な痛みで流す涙のどこがやさしいものか。
しかし、これ以上兄を失望させたくなくて、彼との距離を離したくなくて、俺は結局何も言えなかった。