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やさしい思い出は泣く

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切り裂きジャック。学生時代のこのあだ名には二つの意味があった。
一つは卓球部で呼ばれていたあだ名。誰が呼びはじめたか分からないけど、カットがよく切れることから部員に定着していった。
二つ目は俺が多分卓球よりも好きだったものから。昆虫の標本を作っていた俺を気味悪がった奴らが、卓球部で呼ばれているあだ名を揶揄して意味を付け加えたようだ。
もっぱら部員以外の奴らはそっちの意味で呼んでいたようだったが、理科と卓球にしか興味の無い俺は何も気にせず、寧ろそのあだ名で呼ばれることにすら無関心に毎日を過ごしていた。

そんな日常が打ち破られたのは、あいつと出会ってからだった。皆にプリマ、と呼ばれていたあいつは明るく、誰とも打ち解けられ、男女ともに好かれている正に俺とは正反対の奴だった。
同じ部活動のくせに関わったことのない、そんな人気者と俺が初めて言葉を交わしたのは理科室だった。

「なあ、昆虫の標本見せてよ」
「……別にいいけど」

馴れ馴れしい奴だと思った。こいつもどうせ冷やかし目的だろ、と思っていた俺は、目を輝かせ標本を見るこいつに至極驚かされた。それと同時に、彼の綺麗な瞳に魅了された。

「俺、こういうの間近で見たかったんだよなー。すげーな」

目線は箱の中の虫たちに向けたまま彼は言う。

「俺もやってみたいんだけどさ、簡単に出来んの?」
「そりゃあ難しいのもあるけど、簡単に出来るものもあるよ」
「へぇ、じゃあ今度教えてくれよ!」

瞳をきらきらさせたままプリマがこちらに向き直ったので、俺はたじろいて、ただ頷くことしか出来なかった。

それからだ。彼とは話す機会が増えていって、いつからか共に行動するようになっていた。はじめは皆不審がっていたが、プリマの人柄のお陰か次第にクラスに馴染んでいき、俺は教室の隅から中心へと生活場所を移した。


プリマと俺は考え方が似通っていた。ただ少し彼の方が世渡りが上手で怖がりで飽きっぽいだけ。好きなこと以外は続かない。標本も結局作らずじまいだった。俺はそんな彼が蝶のようで好きだった。


「俺ね、花が好きなんだ」
「へぇ、意外だな」
「キャラじゃないだろ?でも小さい時から好きなんだ。将来花屋になりたいんだよ」
「いいじゃん。頑張れ」
「ありがとう。……やっぱりお前に話して良かったよ」
「へ?」
「他の奴らに話したら絶対笑われるもん、花屋なんて。でもお前はきっと笑わないで聞いてくれるだろうなって思って」
「笑わねーよ。俺は応援するよ、花屋。格好いいじゃん」


俺はその会話の後、一匹の蝶を標本にした。以前捕まえてきた時も、こうして標本にする時も、俺はこの蝶にプリマを重ねていた。
綺麗な翅を開いて夢を追い続けて欲しい反面、標本箱の中に綺麗なまま閉じ込めて自分だけのものにしたいとずっと思い続けていた。



あれから10年以上時が過ぎて、プリマは夢を叶え東京の花屋で働いている。そして俺は母校の教師。過疎化する田舎では、子供の人数も随分減った。だからその分俺は自分の好きなことに没頭出来る時間ができた。
大学時代にもやっていた剥製作りを、また始めることにした。小鳥からはじめて、兎や鶏、豚など結構な量の剥製を作った。
まるで生きているような彼らを並べ見た時、俺はある考えに辿り着いた。法律に反し、人間性を疑われる行為ではあるが、剥製を作り続ける毎に俺の中の常識や道徳心は欠如していき、これから行おうという行為が正しいのか間違っているのかが判断出来なくなっていた。

彼をいつ、どこに、どうやって呼び出そうか。どういう状況に追い込めば彼を捕まえられるか。番は誰にするか。
俺はまるで虫採りに熱中する子供のように計画を立てた。

そして俺の綿密な計画は見事大成功。彼は俺のコレクションの一つになった。
夢を追って東京に出たプリマは、やはり蝶のようだった。そしてその蝶は今、箱の中に美しく保存されている。これが俺が望んだ彼の姿であった。俺だけのプリマ。最上級の剥製だ。

彼をこの姿にしたことを後悔していない。……そう、決して。



作品名:やさしい思い出は泣く 作家名:西垣