共犯ふたり
景色がきゅうに暗転して幕を引いたようになる。量の多いごわごわしたマントが僕の目を耳を体を覆い、宙ぶらりんだった僕の手は硬直し張り詰め、どこにもゆけなくなって震えさえ起きていた。あんたはなにがしたいんだ、この手、クレプスリーの手は最後のさいご躊躇して僕の背に爪先だけで触れる。もどかしいと思って汗が吹き出る。もどかしいだと。もどかしいはず、ないんだ、あんたに、こんなことをする権利はない。家族ごっこなどする気はない。あんたが、父親役をやりたがるのは間違っている。これは間違いだ。雌猿の子宮に子犬が混じっているようなものだ。どうしたってこの抱擁は整合しないし、する、べきではない。たとえこの先、どんなに僕たちが気持ちの上でそれを、欲しようとも。硬直が手から二の腕を伝い心臓まで届く。胸のうちをかき乱す。僕のうなじを引き寄せたその手の温度の腹立たしさはなんだ。肉と肉が触れ合う柔らかな感触に震える僕はなんだ。僕は、決してあんたを、父親には、できないんだ。
それでも、しかし、退く気にもなれないこの体はなんだろう。あんたも、そうか、悲しいのだと、わかってしまった。僕たち家族に飢えすぎている。
唐突にさっきまで眼前にあった暗い長い道を思い出す。サーカスに届く砂利道は風が吹いて黒い。小さな小さな銀色の粒だけが明かり。わっと空で光る星の下を歩く。僕たちこれからあの道を歩く。足音を重ねて。
家族じゃなくていい。家族じゃなくていい。
そう思ったら、並んで歩くと思ったら、首筋の怒りも心臓のからまりもゆっくりとほどけてうせて、それでも悲しかったけれど、けれど僕は悲しみのまま、細くない腰に汗ばんだ腕をきつく回した。
月のない夜だった。暗くて夜道に足がおぼつかないのだ。