Agitation Heart
そっか・・・ここは裏庭の梅の木の下だった。
生暖かい風と、太陽の光の暖かさに再び目を閉じる。
今までの記憶が鮮明に甦る。
「幸村、ここにいたのか」
ガサっという音と共に、聞き慣れた声が聞こえた。
ゆっくりと目を開け、声の主の名を呼ぶ。
「真田・・・?」
「寝ていたのか?」
「まさか。こんなところで寝たりしないよ」
「そうか。皆、幸村のことを待っているぞ」
「待ってる・・?」
「三年生の送別会に部長が居ないんだ。当然だろう」
「立海を全国三連覇に導けなかった頼りない部長をかい?」
「幸村・・・」
「嘘だよ、気にしないで。行くよ」
起き上がり、歩き出そうとする。
「真田・・・?置いていくよ」
「幸村・・・」
「何?」
「あれは、お前のせいではないぞ」
「S1は俺だったんだ。俺のせいで無ければ、誰のせいだと言うんだい?」
「誰のせいでもない」
「ふふ・・・おかしな奴だ。俺はもう行くよ」
「幸村・・・」
背中から届く優しい声に、目頭が熱くなる。
「幸村・・・」
そんな声で・・・
そんな声で名前を呼ぶな・・・
そんなっ・・・
「幸村・・・」
止めろ・・・
止めてくれ・・・・
本当に・・・
「幸村、どうした?」
真田の手が、後ろから俺の肩に置かれる。
その手のぬくもりが俺の冷えた心を溶かしていく。
「真田・・・・」
「何だ?」
「俺が部長で、良かったんだろうか・・・」
「当然だ」
「そうか・・」
目から一筋の涙が流れた。
あの日から泣くに泣けなかった。
プライドとかそんな格好良いものじゃなくて・・・・
ただ、負けを認めたくなかっただけだ。
「勝ち負けだけが全てじゃない・・・・だろう?」
「真田・・・?」
肩に置かれていた手が前に伸び、後ろから抱きしめられる。
「幸村、もう何も背負う必要はない」
その言葉が引き金であったように、止めどなく涙は流れる。
真田は、俺を振り向かせると、少しづつ顔を近づけた。
「さなっ・・・・」
唇が重なり、次第に深くなる。
「・・・・・っ」
「幸村・・・」
「何?」
「愛している」
「ふふ・・・ありがとう」
俺達の頭上からは、ヒラヒラと純白の花びらが舞い降りる。
その花びらは、ゆっくりと地面に落ちた。
まるで、俺の背負っていたもののように・・・
ゆっくり静かに、下に落ちていった。
作品名:Agitation Heart 作家名:鏡香