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僕は君が好きで君は誰かを好きで

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その出会いが偶然だったのか、必然だったのか、運命だったのか。それは今となってはどうでも良いことでしかなかった。

「俺って今まで、募金とかってしたことないんだよな。ガキの頃からさ」

 スーツに柄シャツ、それにドレッド。お世辞にも真っ当な職業をしている人間には見えないが、共通の知り合いに言わせればこの街では貴重な常識人らしく、それを裏付けるような情報は数多くあった。
 その中でも最たるものが、あの喧嘩人形を手元に置き、その上きっちりと上下関係を築いているということだ。
 嗚呼、気に食わない。
 昔からことあるごとにちょっかいを掛けてきた身としては、この男があの化け物にありふれた日常なんてものを提供している現状は喜ばしいことでは決してないのだ。
 人間は人間同士で戯れているのが望ましいし、化け物は独り寂しく人様に迷惑を掛けないよう、精々身体を小さく丸めて生きるべきだった。
 そんな自分の考えが褒め称えられるほど正しく素晴らしいものだと自惚れるつもりは無いが、自分の考えを実行に移したことは何度もあった。
 高校時代から現在に至る迄、何度も何度も喧嘩を売り、その結果化け物が不相応に得ようとしたものを容赦なく取り上げていった。
 
「金が勿体無いとか、偽善者っぽくて嫌だなとか、払ったところで本当にそれが役立てられるのかよとか、そういうことを考えてたんじゃねーんだけど」

 街には仕事が溢れている。一つ辞めさせてもまた新しい仕事を見付けてくるといういたちごっこに辟易しなかったと言えば嘘になるが、此方から姿を見せるだけで勝手に自分の首を絞めてくれるのは正直楽勝としか言い様がない。
 そんな瞬間湯沸かし器みたいな奴が、珍しく真面目に勤めようとしていたことがあった。
 職業はと言えばバーテンダーで、ビールも飲めないお子様味覚の持ち主には無理があるんじゃないかと言いたくなるようなものだったが、長身で金髪の容姿にはかっちりとした服が不思議と良く似合っていた。
 そう思った人間が他にもいたのかどうか、それは知らない。分かるのは、仕事を続けようと決意させた理由の一つが、大量に贈られた制服だということくらいだ。
 感情の起伏は激しいが、教育の賜物か生来の性格故か、一度決めたことを簡単に覆すような相手でもなく、その時は陥れるのに苦労したのは記憶に新しい。
 いつもならば身一つで済むことに対して時間や金銭、ましてや必要以上の労力を払うことに苛立ちも感じたが、それも憎々しげに歪まれた顔で怒気を露わに名前を呼ばれた瞬間どうでもよくなった。 
「薄っぺらい正義感を見透かされたような気になったわけでも何でもない。ただ俺は、何となくいつも思ってたんだよな」

 化け物に居場所など無いのだと、共に寄り添ってくれる相手など存在しないのだと、そう身を持って思い知らせてやる瞬間が何よりも爽快だった。
 そうして何度も何度でも思い知らせて、無駄な幻想など抱かないようにしてやりたった。
 それなのに、この、目の前にいる男は、最もやってはならないことをした。

「可哀想だなって思うんだよ、俺は真っ先にさ。つまり同情してるんだよな」

 新しい職場から追い出しただけではなく、警察まで動かした。これでもう、余程常識を逸した人間でもない限り、近付こうする輩などいはしないだろう。
 そう確信出来るだけのシナリオだったのだ。この、イレギュラーが舞台に上がって来るまでは。
 中学時代の先輩なんだそうだよ、と、十年来の付き合いになる友人は言った。彼奴が少年院のお世話にならずに済んだのは、きっとあの人のお陰なんだろうね、とも。
 だから何の不思議も無いと、そう言った。まるで犬の様に付いて回る姿を見掛けた時も。

「同情ってつまり上から目線だろ。でも俺は、俺をそんな大層な人間だとは思ってないわけだ。限りなく黒に近い仕事で金を稼いでる人間だしな」

 たった一年。それだけの日々しか共にしなかったくせに、十年もほったらかしにしていたくせに。
 今更。――今更!

「それを認めるのが嫌だったんだろうな、きっと」

 何年も染め続けて痛んだ金髪。今まで吸おうともしなかった煙草の匂い。……その、全てが。

「だけど今、初めて思うよ。初めて認める。俺は、お前に同情してる」

 何年経っても変えられなかったことを、この男はたった一言で変えてしまうのだろう。
 他人よりもちょっと足が速いくらいしか取り柄がなさそうな、この男が。

「お前は可哀想な人間だよ――折原臨也」

 いつもポケットに忍ばせているナイフを使えば、呆気なく事切れてしまうだろう。この男はごく普通の人間なのだから。
 けれど、それは出来ない。
 それはつまり、そういうことなのだと気付いたのは、目の前の男をひたすら追い続ける彼の姿を見た時だった。