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致命的なブルー

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 手で包めそうな大きさの顔に触れ、きめ細かな肌に指を滑らせてやる。アルビレオの手が進む度、目の前のホクトは小さく息を漏らしていく。
 この歳で母国を欺き単身モンサルバートへ渡り、グラール騎士団となったホクト。トレイターからエリート集団への転身は華麗なものだが、その分人間として必要不可欠な経験は皆無だ。もっとも、トレイターであったという事実はグラール学園の資料を拝借して得た情報であり(特待生特権というやつだ)、ホクトの恋愛遍歴も含め過去の事を彼自身から聞いたことはない。ただ、頬に手を掛けただけで見せる過剰な反応で、色事の経験はないと判断出来る。今のホクトからアルコーン迎撃の際の冷静さは存在しない、ただただ丸腰の状態である。
「……ホクト」
 耳元で名前囁いてやれば、華奢な小さく肩が震えた。名前で呼んでやると顕著な反応を見せる事を知っている。普段の呼び方は彼のコンプレックスを逆撫でするものだから尚更、らしい。
 そっとホクトと目を合わせれば、ブルーの双眸に出会う。このふたつの目がアルビレオの背中に視線を送り始めたのはいつだったろう。隠す事を知らないまっすぐな視線、アルビレオはその存在にすぐさま気が付いた。ほんの小さな出来心、日々の生活に潤いを――そんな軽い気持ちで手を出した。「姫」と呼ぶのと同じように、彼をからかう、それだけのつもりで。
 二人の人間が顔を突き合わせている。「個人」と「個人」を分け隔てるボーダーラインを、アルビレオは踏み越えていく。ホクトの持つテリトリーに侵攻、それから彼自身の唇に触れた。舌先で薄い唇を撫でて、若干かさついた肌に水分を与える。平熱よりも高い温度がすぐそこにある事を知って、わずかに開かれた隙間に忍び込んだ。飴玉を舐めるように舌を掻き回すと、濡れた感触。
 不意に左袖を掴まれた。それはホクトが上体を保つのに必死だという事を示している。いつだって他人に頼る事を好かない彼が、衝動的とて支えてもらおうとする――その理由は余裕がないからだ。辿りついた仮定を目で確かめるために、強引に繋がっていた舌を切り離す。再度見たブルーの双眸。その目は滲み、彼の内に篭っている色気を解かしていた。見詰め合う。出会った色の事をアルビレオは、綺麗だと思った。蒼、とは日本語でブルーの事を指すらしい。彼の名前に、容姿に、似合う色だと思う。
「……っあ、」
 ブルーが脳裏を掠めた瞬間、アルビレオは衝動的に再度ホクトに覆い被さっていた。開かれたままの瞳、右目にそっと触れた――舌先で。そこは体内で一番に多く水分を含む箇所。涙でよりきらきらと光を放つその箇所、どうしても触れたいと思ってしまった。眼球に舌を這わせば、舌とはまた別の濡れた感触。意図せず漏れた声にアルビレオの背筋も粟立った。
 舐めるというよりも、ただ触れる程度。覆い被さった身体を立て直し、再度ホクトと顔を合わせる。彼は先ほどの出来事が信じられないと言わんばかりに、目を瞬かせていた。まさかそんな所に触れられるだなんて予想だにしなかったのだろう。呆れる事に――彼を見て、欲情している自分がいる。一度だって触れられた事などない、触れられると予想が付かない箇所に触れた。それだけでない、綺麗だと感じたブルーに自身の組織が入り交ざって、また新たに光を放つのだ。怖いくらいに煽情的な事実だと、思う。
 そう、最初はからかうだけのつもりだった。自分の手の上で、ホクトの事を転がしているのだと、そう思っていた。だが主導権が自分にある訳ではないと知ったのはいつだったか。彼を綺麗だと、甘いと、思い始めたのはいつだったか。落ちた瞬間まで忘れるほど、気が付けば耽溺しているという有様。ホクトが最低限の余裕すらないのと同様に、アルビレオも同じく丸腰の状態だ。ホクトがそれに気が付かないからこそ、保てているバランスが存在する。不安定な事実を突きとめられてしまえば一たまりもない。
 だから、どうしようもなくなるほど恋に落として欲しい。でも切っ掛けが掴めないまま――欺瞞を続けている。出来ることなら、ホクトからボーダーラインを飛び越えてきて欲しいとすら。恋人でもない、友人でもない、微妙な関係のままのバランスを貫いている。
作品名:致命的なブルー 作家名:nana