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同居人の話

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私の同居人は、月の出ていない夜になると紅を塗る。紅を塗って髪を下ろす。鮮やかな着物を着る。同居人は女物の着物を一枚しか持っていないので、たまに私のものを貸す。私だって一枚しか持ってはいないから、それで二枚。それを着まわす。
そうして見事な娘となった同居人は、私以外の人間に悟られぬよう闇にまぎれてそっと、部屋から出てゆく。
どこに行くのかは私も知らない。けれど、誰と逢うのかは薄々知っている。

ある晩、すっかり寝巻きに着替えて布団に寝転がっていた私は、娘へと変貌していく同居人を見ながらポロリ、と零した。
「綺麗だね」
「当然だ」
別段嬉しくも無さそうに言う。当たり前だった、彼が綺麗だといってほしいのは、毎夜のように通う男だけだったのだから。
13という年齢の華奢な少年は、化粧さえしてしまえば本当に年頃の娘と同じで、加えて私の同居人は美貌の少年であったから、さぞ相手の男は喜ぶんだろうと思った。

女の格好をしなければ好いた男に抱いてもらえない同居人のことを考えて過ごす夜は長い。
同居人の幽かな足音が聞こえなくなってから、私は布団を深くかぶって、同居人のことを考えた。
常の、自分への自信に輝く同居人の笑顔を思い返し、そして今、好きな男のために女に成り変わる彼のことを思う。
好いた男に必要とされる夜は幸せなのだとも思う。だが、決してそれが完璧な幸せではないのだと思う。

性器を隠す話を聞いたことがある。着物は完全に脱がないで、なるべく後ろから、声はなるべく甲高く、女みたいに、そうしたらあの人は喜んでくれるから、と、お世辞にも声が高いとは言えない同居人が言った。
必死に性器を隠す話。
性器を隠して、女になって、あの男は同居人を愛してくれるのだろうか。
答えは決まっているのに、誰も声に出せないままでいるのだ。



ある朝同居人が私の寝床に潜り込んできた。布団の中でいきなり強く抱きしめられて、私は目を覚ました。私はまだ夢見心地であったがなんとか寝ぼけた脳で同居人の存在を認め、もぞもぞと動いて布団に入れるようにスペースを作ってやった。
私の胸のあたりに同居人は頭を強く押し付けた。寝巻きが肌蹴て見えた素肌を、水滴が伝った。そうして私はやっと、目を覚ました。
「どうしたの、何があったの」
なるべく優しい声音で問うてみたが、同居人は答えなかった。私は布団を剥いだ。赤い着物に包まれた同居人が、私に抱きついたまま小さく震えていて、それは本当に女の子みたいで、なんだか本当に哀れだった。

私は昨晩丁寧に梳かれていた美しい黒髪に鼻先を押しつけた。
「獣の匂いがする」
ぽつりと呟くと滝夜叉丸は嗚咽をひとつ漏らした。
作品名:同居人の話 作家名:ノミヤ