太陽の子
長い航海を終え、地元に戻ってきたのはつい先ほどだ。
停泊の手続きや積荷の処理、次の航海に向けての資材の調達など、ナイジェルにはすべきことが山程あった。
しかし、次の航海の予定がまだたっていなかったこともあり、考えていたよりは少し早く、ナイジェルは揺れないベッドに腰を下ろしていた。
しばらくぶりの熱い湯でも使い、美味い酒と美味い飯、何にも邪魔されない睡眠を満喫しようとした最中、優雅な来訪者があった。
「シリルは劇団が忙しいとかで、今日は会えねえんだとさ」
「だから俺のところへ?」
いい加減にしてくれ、とナイジェルは肩を上げた。
「そう不機嫌な顔するなよ。良い酒を土産にしたんだ」
ジェフリーは子供のような無邪気さで笑い、遠慮なくジェフリーの肩を抱き寄せた。
「ジェフリー」
「ここは陸の上じゃない」
「揺れないベッドで眠りたいんだがな」
「それはお許しが出たと判断して良いのか?」
女にも男にも人気のある整った顔立ちが、ナイジェルを覗き込む。肩から腰に下りていく手を、ナイジェルは止められなかった。
「勝手にしろ」
「ナイジェル」
ジェフリーに有無を言わさず押し倒され、ナイジェルは金糸の先の天井を隻眼で見詰めていた。
「すまなかったな」
「……何が」
「いろいろと」
歌うような声に、ナイジェルは眉を寄せた。
「くだらないな」
「この行為が?」
「それも含めてだ」
「………素直に愛しているといえば良い」
「あんたほど口が達者に出来ていないんでね」
「そこが可愛くもある」
唇がそっと触れ、ナイジェルは瞳を閉じた。弾力がある唇に押されるだけで、ひどく感情的な気分になる。海の上では押さえつけていたものが、一気に波立つ。
「……っ…」
「ナイジェル」
ずしり、と男の体重がベッドに乗る。軋む音が、ナイジェルの気持ちをぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた。
すぐに口付けは激しいものになり、ナイジェルはジェフリーの背に指を這わせていた。
「…ん、……ッン……ジェフ、リ……」
甘い口付けの後、身を裂くような痛みと絶望にも似た快楽がジェフリーの手によって与えられるのだろう。期待になのか、恐怖になのか、ナイジェルの体は強張った。
「ナイジェル?」
「……なんでもない」
「無理強いはしない」
「最初には無かった気遣いだな」
「怒っているのか?」
とげとげしい物言いになってしまった自分自身にナイジェルは苛立ち、ジェフリーの背に爪をたてた。
「ナイジェル?」
「…………」
恋人だとかいう甘い関係以前に、信頼しあう友人であった。
この関係は、何よりも勝る。
だからこそ、二人の関係はいびつで、不確かだった。
「………ナイジェル」
ジェフリーが切なく名を呼び、ナイジェルの胸に顔を埋めた。