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前世を言っちゃいけないよ

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そろそろだとは思ってたんだよね、俺様も、うん。


「Shit! もう限界だっ!!」

一年が、経っちゃいました。
伊達ちゃんが電波な記憶を受信しちゃってから。
「おいっ、まだあの熱血バカは思い出さねえのかっ?!!」
伊達ちゃんにギラギラした眼を向けられて、俺様は肩を竦めた。
お昼休みの教室で、伊達ちゃんの怒髪天をつく勢いにクラスメイトが遠巻きにしている。
「全然。まだ暫らくは無理じゃないかな?」
「あいつ今、何やってんだよ?!」
「えー、相変わらずだよ?大将のところで槍の鍛錬して、ときどきは引っ張り出されてステージの音響チェックしたり、他の人の楽器を触ってお兄ちゃんに馬鹿にされたり?」
「No kidding!!佐助っ、もういいから、お前が何か思い出すような小細工してみろっ!!」
「んーと、無駄だと思うけど?」
「いいから何かやってみろっ!!」
「ここ二ヶ月は試してんのよ?軽業みたいな真似見せたりとか、道場で簡単に試合してみたりとか。槍と徒手空拳だけど。」
手の内を明かせば、伊達ちゃんは怒気を少し抑えた。
「・・・へえ?お前も現状はイライラしてきたってところか。」
ニヤ、と策略家な顔が唇を歪めるのを横目に、俺様は後頭部で腕を組む。
「ざぁんねん。全然違います。近いうちに伊達ちゃんのフラストレーションが爆発するだろうなって思って先手打たせてもらいましたー。」
「だあぁあっ!そういう小細工はいらねえんだよっ!!」
頭を掻き毟る伊達ちゃんは予想通りで、俺様は温い笑みで眺める。
と、ポケットの携帯が震えた。
メール2件。伊達ちゃんを放置で文面を読み、噴き出す。
「伊達ちゃーん、そろそろクールダウンした方がよさげー。」
アアッ?と凄まれても俺様は込み上げる笑いが抑えきれない。
「あのねー、今、メーリスの連絡入ってね?伊達ちゃんがご機嫌最悪だから気をつけましょうって回状されちゃってる。」
「テメエまだあのフザけたファンクラブとやらのメーリングリスト脱会してなかったのか・・・」
伊達ちゃんの上がったテンションが一気に下がって首を折った。
ヒートしていた分の疲れが、どっとキたらしい。
「情報収集はもう人生の一部だからねえ。あとコレ、結構面白いんだよね。」
俺様は、どう面白いかは口を噤んだ。
誤情報を流して伊達ちゃんが騒動に巻き込まれるのをプロデュースしてみたりとか、相当楽しいので。
例えばバレンタインにチョコよりレースのハンカチが効果的、とか流したときとか。
あれは最高に面白かった。何しろチカちゃんまでが大作の手作りで参加した。
そういう諸々がバレたら携帯、間違いなく壊されそう。
「女ばっかりの中にお前、どうやって入ったんだよ・・・」
もういい、とばかりに伊達ちゃんは鞄から風呂敷き包みのお弁当を机に置いた。
「そこは企業秘密です。あんまり苦労はしなかったけどね?」
伊達ちゃんの非公認かつ、内実公式ファンクラブは女子限定になっている。
でもまあ、どういうものか知っておいて損はないだろうし、と一年のうちに俺様はこっそりメーリングリストに入っておいた。
当然ダミーのアドレスで。携帯に転送されるよう設定して。
活動内容はほぼソレ一本で情報を共有する以外に集団活動はしていない。
「でもねー、生徒会のメルマガからもお知らせ回っちゃってるよ?」
教えれば伊達ちゃんは怒りの余り言葉にならないらしい様子。
机に肘を突き頭を抱え、黒田潰す、と小さく呟いている。
俺様はお怒りの伊達ちゃんに潰されると確定した、相変わらず不幸な生徒会会計にお祈りだけ捧げてみた。
伊達ちゃんのカリスマは、まずその気風の良さから女子に浸透した。
それから、学級崩壊したクラスで采配を取った級長の男気にアテられた、普通の男子生徒の憧憬も集めた。
担任の直江が半泣きで職員室に駆け込む姿は日常的に全校生徒の目に曝され、それで信頼を集めてしまった伊達ちゃんは二年生になると生徒会長になった。
級長ー!と叫ぶ声が、会長ー!に変わったけれど、筆頭ー!と叫ぶ声の記憶とあんまり変わらないから俺様は呆れた。
で、女子ファンクラブのメーリスに入れない男子生徒が中心となって、「伊達会長の御様子」メールマガジンの発行が生徒会に要請され、何故だか会計が音頭を取って要請は承認された。
多分、黒田はメールマガジンを発行することで人心を操作・掌握しようとか策を弄したんだと思う。失敗してるけど。
メールマガジンの発行部数は、男女共に登録されて結構いい数らしい。教師も登録しているので。
去年の担任だった前田と、今年の担任の前田、校長が登録しているのは知っている。勿論、俺様も登録している。
で、どうしてか会長を辞めてからも発行は続いている。
発行部数が増えこそしても減らない不思議。
卒業しても発行が続くかどうか、トトカルチョになってる。胴元は俺様。
「旦那のことは暫らく待つんだね。まだ無理だろうってのが大将と俺様の見立てだから。」
「・・・Why?」
「んー、まだ仮説段階だから内緒。整合性が合わない人が一人いるんだよねー。」
「言ってみろよ!」
「内緒って言ったでしょー?」
ブレイクブレイク、と気色ばむ伊達ちゃんを抑えていたところで後ろから声がかかった。
「荒れてんなぁ。どうしたよ、伊達?」
「うーん、儘ならない現実ってヤツに辟易しちゃったみたいね。」
一人クラスが違ってしまったチカちゃんだ。
一緒に昼食を取るべくやって来て、空いた席に座る。
「食事しよーぜ?13時から呼ばれてるだろ、元・生徒会長。」
舌打ちして伊達ちゃんが弁当の風呂敷包みを開く。
卒業式の諸々を打ち合わせなければならないのだ。
今の生徒会長である家康を待たせるのは気まずいらしい。
「高校もこんな感じになるのが眼に映るな、お前ら。」
チカちゃんはちょっと淋しげに笑った。
チカちゃんは別の学校に行くのだ。
高等専門学校。略して高専。
理由はただ一つ。
ロボコンに出られるなら友情だって置き去りだ。
国立だから試験内容が半端なく難しい。
個人授業をチカちゃんは伊達ちゃんから受けて、付き合った俺様も受験校のランクが上がった。
結果、俺様は伊達ちゃんと同じ学校を受けることが出来てしまった。
多分、合格するだろう。
「チカちゃん、いつでも遊びに誘ってね。勿論お手製スカート土産にね。」
「No way! やっとフリフリ攻撃から逃げられると思ったってのに!!」
あっはっは、と俺様は腹を抱えて笑った。
チカちゃんはレースで一杯の洋服を伊達ちゃんに着せようと奮闘した三年間だった。被服部おそるべし。
「まかせろ。高校は可愛い系よりセクシー系でいく。伊達はそっちの方が似合いそう。」
「もう駄目、俺様笑い死ぬ!!」
ガタガタ椅子を鳴らして後ずさって、爆笑した。
伊達ちゃんは握り箸して唸っている。
セクシー系は心惹かれたようだ。
が、チカちゃんのことだからゴシック系に横滑りする公算が高いと踏んだ俺様はもっと可笑しくなって酸欠になった。
ひーひーと息を整えて、俺様は目尻に浮かんだ涙を拭う。
「いい三年間だったよね。」
「ほんとな。」
「ケッ。まだ人生長いんだよ。シメみたいに言うんじゃねえ。」
「伊達、それツンデレ。」