くゆらす、
「煙草を一本くれないか?」
起き上がるのが気怠くて、寝台の縁に腰掛けた山嵐の背中に向かって声をかけた。
「机の上に口の開いたのがあるだろう」
山嵐はちらりと横目でおれを見てから悪餓鬼の笑みを浮かべて机に手を伸ばした。そして煙草を一本取り出したのをくわえて安いマッチで火を点けると、いかにも旨そうに一服やった。おれは、人が煙草をくれと言って頼んでいるのに何て奴だと腹を立てたが、山嵐は奇妙なことにいきなり自分の吸いかけの敷島を俺の口へと突っ込んだ。そしてにやたにやと嬉しそうに笑っている。
「おい、お前の吸いさしなんかいらないよ」
「そうか」
「そうかじゃない。うう、何だかお前の味がするような気がする」
「おれの味なんてものがあるのか」
「ある」
「はは、それがお前には分かるのか」
逞しい肩を大きく揺らして山嵐が笑うたび、同じリズムで寝台が揺れる。なにがそんな馬鹿笑いをする程可笑しいのか、おれにはさっぱりわからない。わからないから、横目で顔をねめつけて、苦い煙をいっぱいに吸っていた。
いやだとは言ったものの、腰が痛くて身体を起こすのは億劫だし、棄ててしまうのも勿体ない。仕方がないからしかめ面でお古の煙草を吹かしていると、山嵐は一層にやにやしてこちらを見ていた。煙草をふかし終えてもずっと、にやにやしながらおれを見ていた。