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すぎたこう@ついった
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novelistID. 1430
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然様なら、青き春よ

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ああ、負けるな、と、一面仲間と天人の死体で埋め尽くされた酷い様を見て(自分でも怖いくらい)冷静にそう思った。今日は何人死んだ、明日は何処で、などと考える余裕すら既に無い。ただがむしゃらに現れた天人を斬って、一体何になるのだろうか。この国の未来は疾に、天人がやって来た時から決まっていたのかもしれない。何も知らずに踊らされて居たような自分が、あまりにも滑稽過ぎて今の状況下に対して笑みさえ浮かべられそうだった。前だけを見て、その内前すら見えなくなって馬鹿みたいだ、と。

坂本が宇宙へ行き、桂が前線に立つよりか怪我人の救護に当たるようになってから、戦場での唯一の光となった高杉も、其処で半分の光を失った。俺にしても光だと持て囃されはしていたが、実際見てみれば到底光とは程遠い、寧ろ敵方にとっても味方にとっても現実は死の象徴であり決して希望には成り得ない存在である。高杉の目が片方になってから、鬼兵隊はそれまでより、一段と彼を光と崇め彼を命懸けで守ろうと団結力を高めた。それは高杉に簡単に折れることの無い力と、一方では計り知れぬ程の圧力をも与えている。戦死した奴らの為に塞ぎ込む回数も度合いも、以前に比べ格段に増した。

高杉が怪我をしたあの日、感情に任せて彼を無理に抱いたその日以来、彼とは最低限度の接触しか叶えられていない。目は勿論、精神にも多大なる負担を与えるだろう事は元より分かっていたのに、内側から込み上げて来た苛立ちや後悔、嫉妬、劣情の全てを高杉にぶつけてしまった。初めて本気の拒絶を示されそれでも後には引けず、無理矢理力任せに傷付いた身体を犯した。後に残ったのはどう足掻いても拭えぬ罪悪感と自己嫌悪で、高杉が回復するまでもしてからも顔を合わせる事すら出来ずにただ独り、夜間陣屋を抜け出しては戦場以外でも天人を手当たり次第に斬った。

手首を縛られ馴らされもせずに後ろを暴かれ、高杉は怒りながら泣きながら歎きながら、最後に苦しそうに嗤った。俺は役立たずだ、そうだろう?なあ、ぎんとき、。後にも先にも人の前でこうして笑ったのは一度きりだったが、思えば二人とも狂っていたんだろう。泣きながら抱く男と嗤いながら抱かれる男、なんざ正気の沙汰じゃあない。そして、どちらも狂わせたのは結局互いに、相手の所為なのだ。果たして出会うべきであったのか、こんな風に張り詰めた細い糸一本でどうにか生きているというのに。




「高杉、俺さあ、」

何週間か振りに、総督として宛がわれた部屋で未だ勝たんと虚勢を張るための準備を整える彼に背後からぽつりと声を掛ける。ほんの一瞬だけ肩を揺らしてから、ゆっくりと振り向き平静と変わらぬ装いでこちらを見上げた。無理をしている、そして俺が何を言いたいかももう、知っている。

「離れるわ、此処。」

「…そうか。」

軽く頷くと直ぐにまた机へ顔を向け、仕事に戻る素振りを見せる。まるでもう良い、出て行けと言わんばかりの態度に苛立ちを覚えた、結論から言えば悪いのも自分勝手なのも全て俺なのだが。先よりいくらか逞しく、果敢無くなった背中に目を細め、そのまま出て行こうとしたのだが厭に後ろ髪が引かれる。後ろ髪、と云うより、俺は自身の後ろめたさをどうにかしたいのだろう。衝動的に一歩大きく前に踏み出し、細い手首を掴まんと腕を伸ばした。


「――ッのさ、」

「言うな。


そういうのは要らねェって事は、テメェが一番良く知っているだろう、銀時ィ。」

「……」

「また会うことも有るまいよ、精精ゴキブリみてェにしつこく生き延びるんだな。」


手を振り退け、こちらに焦点を合わせぬよう明後日の方向に視線を遣りながら、怒っているでも何でもなく、ただ少し皮肉めいた台詞を吐いてから、嗤った。かつての屈託の無い笑顔とも悪戯をする子供のような笑顔とも掛け離れた、ああ、この顔は仲間を殺した天人でも、先生を殺した幕府ですらなく、俺の所為なのか。後悔は言葉だけじゃ足りないほどしていると云うのに、何故か凄く嬉しくなって今までで一番心が温かくそれでいてどす黒い何かに満たされて、彼の肩を押さえ獣のように首筋に手加減無しに噛み付き、喉元から血を垂らす残し無言でそのまま部屋を去った。大刀一つで荒れた道を歩く俺の咥内には高杉の血の香りが充満していて、どうしようもなく誰か誰でも良いから斬り付けてみたくなった。










然様なら、青き春よ、(あの頃に、帰れはしない)






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