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オトナの恋には程遠い

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「あ、花村先輩こっちッス。こっち、海老チリきてません」
完二がいるのは、まだ分かる。一個年下ではあるが地元に住んでいるし、大方自分達を祝いに来たのだろう。式自体には出ていなかったのだし。
「よぉーすけぇ……うろちょろしてないで、こっち、座れ」
しかし、だ。どうしてこの場に相棒がいるのかが全く分からない。居住地は都会で住民票もあちらにある筈なのに、式にも出て打ち上げにも参加している那須の手招きを受けて、陽介ははいはい、と肩を竦めた。「ちょっと待ってろ」と言い残して、愛家の主人から受け取った大きな海老のチリソースを各テーブルに置いてゆく。
「やったー! 海老チリ、久し振り~」と歓喜の声を上げるりせと、「相変わらずの幹事気質ですね、花村先輩」とこちらの労を労う直斗がこの場にいるのはもっと分からない。一個年下で居住地は都会で、式に参加しなかった以外は以下同文の彼女らに料理を配り、酒が足りないと騒ぐ長瀬に代わって焼酎を注文し、下戸であるらしい、あいの前にジンジャーエールを置いてやってから、ようやく那須の隣へと腰を下ろした。遅いぞ、と剥れるその眼は悪役ばりに据わっている。
普段は表情に乏しい白い頬はほんのりと赤く染まっていて、彼が酔っていることを教えていた。――どちらかと言えば、酒には強い体質だと思っていたのだが。
「折角来てやったんだから、俺に付き合え。グラス寄越せよ」
絡み酒かよ、タチ悪い。そんな本音は押し殺して、素直にグラスを差し出すとなみなみと清酒を注がれた。あまり得意ではない種類の酒だが、覚悟を決めてグッと飲み干すと那須は満足そうに口元を綻ばせる。
「似合ってるよ、スーツ。銀座の売れないホストみたいだけど」
「それ似合ってるって言わなくね!? なに俺三枚目?」
「カラーシャツがいけないんだろ。あとスーツも良いけど、袴も見てみたかったな」
「別に良いだろ、スーツで。おめーが気合入れ過ぎなんだよ、どっから着て来た!」
慣れないネクタイを緩めながら、紋付羽織袴の相棒に突っ込むと、周囲からどっと笑い声が起きた。「言われてみればそうだよな」と言った一条も同じ袴姿であるが、彼の場合は家柄が家柄だ。本人の意思に関係なく着させられた感が強いが、那須は自分の希望で着て来たのだろう。何処からか。まさかこの格好で電車に揺られて来たとは思えないので、前泊したであろう堂島家からだと信じたい。
その涼しげな目元と凛々しい顔立ちに和の正装はしっくりと嵌っていて、顔を合わせた時には思わず見惚れてしまったのだが、同性故の対抗意識からか妙に悔しくて、陽介は一言たりとも褒め言葉を掛けていない。「こんな機会でもないと着ないだろう」と尤もらしい理由にも「結婚式ででも着れば良いだろ」と冷めた返答をして即座に後悔した。ムキになって反論したところで、虚しくなるだけなのに。
おまけに場の空気も悪くなる。ちら、と恐る恐る横目で隣を窺うと、那須は眉を顰めてこちらを見ていた。三白眼気味の瞳が、スッと鋭く細められる。
「……そうか」
相槌は何処か剣呑として聞こえた。頷く那須を見てから、己の失言に気付く。
だって自分達は結婚なんて出来ない。式を挙げるということは今の関係が解消されることとイコールだ。要するに、結婚式で着ろというのは、将来的に別れることを想定していると受け取られかねない発言なわけで――…
「……や、ま、まあ結婚するとも限んねーしな。着ておくに越したことは」
慌てて頭を振り、前言を撤回する。断じて、そんなつもりはない。別れたくなんかない。
例え世間的に認められない仲であっても添い遂げる覚悟で付き合っているのだと、そこまで他人の前では言えないが、せめて他意はないと伝わればと拙い弁解を入れるも那須の面持ちは厳しい。「そうか」真顔で頬杖を付き、「陽介は和装が好みか」と呟くと、空いた右手を伸ばして陽介の顎を捉える。

「お前が白無垢を着ると言うのなら、もう一度着てやっても良いけどな」

くすり、と柔い微笑みまでの距離、十センチ。その近さや表情に面食らっている内に口付けられる。重なった唇から零れる、酒の味。苦味と甘味の混じった唾を舌で掻き回されて、堪らず喘ぐ。口の端から生温かく透明な液体が伝っていった。
「は……っ、ふぁ、あ……ん…………」
離されるなり上せた頭が傾いで、クラクラとした。平衡感覚を失くした自分を誰かが支えてくれる。「は、花村……大丈夫?」と覗き込んでいるのは千枝で、背中を擦ってくれているのは尚紀だ。いつの間に合流したのか。ぼんやり遠くなった耳に「いいぞぉ~。もっとやれ、も・っ・と~!」と天城屋旅館の若女将の野次が突き刺さる。何度か目を瞬いてどうにか面を上げると、皆揃って陽介を見詰めていた。
「……あ…………」
奇異の目か、はたまた蔑視か判別が付かないが、己に注がれる幾つもの視線にたじろぐ。
ぷつりと停止した思考回路に再びスイッチを入れたのは「むお~! アッツいベーゼだったクマね~」と呑気に評したクマだった。かあっと頬を紅潮させた陽介は弾かれたように隣に向き直り、頬を張る。

「……ふ、っざっけんなバカヤロぉぉぉッ!!!」

――果たして、酔っ払いの悪ふざけで済まされるだろうか。変な噂が流れやしないか。仲間達が離れていかないかと幾つもの懸念が脳内を駆け巡る。
居た堪れなくなって店の外へと飛び出した陽介を幾つもの声が呼んだが、振り返る気にはなれなかった。子どもみたいに半べそを掻いて走り去るスーツの新成人はあまりにも情けない自分自身を嘆いて、目元を拭う。ずず、と鼻を啜る音はのどかに流れる川のせせらぎと、小鳥の囀りに混じって消えた。


* * * * *


「あーあ。センパイ、なーかせたー」
「何やってんのよ眞矢。今のは幾ら何でも花村が可哀相でしょ」
「花村先輩はあれで常識人ですからね。時と場合を弁えないと」
「や~、はなむらくん、ノリわるっ!」
「雪子、アンタは黙って酒呑んでて。ややこしくなるから」

一方、愛家。意中の彼氏に容赦のない平手打ちを食らった那須は真っ赤に腫れた頬を擦りながら不貞腐れていた。「酒の席なら、もうちょっと寛容になるかと思ったんだけどな……」と言い訳をしても周囲の、特に女性陣の眼差しは冷たい。
憐れんだように一条がグラスに酒を注いでくれたので一気に干して、ぼやく。
「……この調子じゃ、まだ公言出来そうにないな」
「殆ど皆知ってるけどね」
冷静な結実の突っ込みに一同は首を縦に振る。白無垢着せる前に逃げられるんじゃないわよ、と言うあいに、那須は力なく項垂れたのだった。