ありがと だいすき あいしてる
俺に出会ってくれてよかった。
君に出会うまでの俺の心は、凍てつく闇のようだった。
君は俺の中で、太陽のような存在だった。
「椎名!!」
いつもの声が、俺を呼び止める。
桜舞い散る季節、俺達三人は中学生になった。
てっちゃんとリョーチンとは、小学生からの付き合いだ。
俺は成績も優秀だったので、小学校の先生からも私立の中学を薦められたのだが、本人たっての希望という事で、晴れて二人と同じ中学に通う事となったのだ。
「なんだい、てっちゃん?」
顔にかかる桜の花びらを手をかざして除けながら、俺はてっちゃんに応えた。
「リョーチンが帰りにあげてんかのコロッケ食べたいって言うからよう〜!
椎名も一緒に行かないか?」
その満面の笑顔。
屈託の無い。純粋な…。
てっちゃんに差す陽の光も相まって、俺は思わず息を飲んだ。
そう、まるで太陽のような…。
「行くよ」
条件反射で答えたものの、おかしな挙動を気付かれはしなかっただろうか。
思わず顔が熱くなる。
「じゃあ、校門のところで待ってるからなー!!」
そう言って走り去る後ろ姿を眺めながら、俺はそっと溜息をついた。
我ながら情けない。
てっちゃんの一挙一動に胸躍らされる毎日。
彼は日々、実に色んな表情を見せてくれる。
怒った顔。笑った顔。まるで百面相だ。
その度に俺は、眩しいものでも見るかのように眺める。
毎日少しずつ、凍った心が溶けてゆくのが判る。
「こんな日が訪れるなんて、夢にも思わなかったんだ…」
誰に向けたでもない俺の呟きは、するりと虚空に消えていった。
ありがと だいすき あいしてる
おれのたいよう きみがいればそれだけで…
作品名:ありがと だいすき あいしてる 作家名:化野