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お題:「深夜の海辺」で登場人物が「騙される」、「マフラー」という単語を使った話


「君が寒そうだから」
そう言って、骸が綱吉の首にマフラーをぐるりと巻いた。夜の闇に骸の白い襟元が浮かんで見える。
「お前が寒いだろ?」
「いいえ? 僕は寒さには強いので」
 骸はマフラーを返そうとした綱吉にかぶりをふると、波打ち際を歩き出した。
「今年一番の冷え込みだって」
「今年なんて、まだ始まったばかりじゃないですか」
 綱吉の言葉を骸が鼻で笑う。吐く息が白い。打ち寄せる波が凍らないのが不思議なくらいだった。
 深夜の海。
 静けさの中に波の音と、自分たちの足音だけが響いている。
 その音を聞きながら綱吉は、昔、やはり骸と二人で海を見たときのことを思い出した。
 もう、どれくらい前だろう?
 あのときの海は、深淵のように黒く、今にも何もかもを飲み込みそうに見えた。
 なのに……今二人で見ている海は、あのときとはまるで違う。真っ黒なのは同じはずなのに。
 あの夜の自分は、どこまでも切羽詰って、自分から逃げ出したくて、そんな気持ちを抑えられずに海まで歩いた。
 多分、海が自分を飲み込もうとしていたのではなかったのだろう。
 自分が海に、飲み込んで欲しいと思っていたのだ。
 ずっと長く海を見つめて、踵を返そうとしたときに、ようやく骸が着いてきていたことに気付いたのだ。
 ――――おや? 帰るんですか?
 そう言った骸に、なんと答えたのかは覚えていない。
 けれど今、海がこんな風に穏やかなのは、きっと……。
「骸っ」
 綱吉は、ぐいと骸の腕を引き、屈ませた彼の耳に両手を当てた。
「ほら、こんなに冷たくなってるじゃん」
 寒くないなんて言っても騙されないと、綱吉は骸を甘く睨む。
「本当に寒くないんですよ」
 けれど、骸は再度そう言って綱吉の頬に両手を当てた。

「……君の唇のほうがよっぽど冷たいです」

 冬の風にさらされた唇が、じんとした。
作品名:@Twitter.03/骸ツナ 作家名:|ω・)