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織牛 宮彦
織牛 宮彦
novelistID. 21680
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なごり雪

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雷門中グラウンドは、真っ白に染まっていた。
今年最後の、なごり雪。
こんな光景、白恋中ではたいして珍しいものではないのだが、皆には珍しいらしく、特に綱海くんあたりがはしゃいで走りまわっていた。キャプテンまで室内トレーニングもそこそこに外へと走り出して、僕は思わず笑ってしまった。立向居くんが作った三匹の雪兎を眺めていると、冷たい風が頬を撫でる。

(…そこまで雪、好きでもないしなぁ)


…アツヤが居たころは、二人で遊んでたな。



「―アツヤ」

思わず声に出してしまったのにも気付かず、感傷的な気分が高まり、空を仰ぐと、…キャプテンの顔がすぐそばにあった。顔には出さなかったけど少し驚いた。
キャプテンが僕のすぐ横に腰かけた。

「吹雪は、雪で遊ばないのか?」

とまどいを笑顔で隠して、必死に答えを取り繕う。

「さ、むいから、ね」

するとキャプテンはすごく真剣な顔になって少し考え込んだ。
そして、ぽん、と両手を打ち合わせて僕に向きなおった。

「そーだ!」

キャプテンはいそいそと自分の左手の手袋を外した。
グラウンドの方へと二、三歩かけだして、それから僕に手袋を投げてきた。

「それ、貸すよ!」

キャプテンに返そうかとも考えたが、手袋を着けてみた。

「あった…かい、ね」

するとキャプテンは得意そうな笑みを浮かべて、自慢気に言う。

「だろ!雪合戦しようぜ!」


貸してもらった手袋は、キャプテンの体温で暖かかった。




「キャプテーン!!」

呼ぶと、キャプテンはすぐ振り向いた。
追いついて、募るイタズラ心を抑えつつ話しかける。

「キャプテン、目、瞑って!」

頭に『?』と浮かべつつも疑うことなく目を閉じたキャプテンを、僕は少し意地悪な気持ちで眺める。そしてそっと…その額に唇を寄せた。
そっとキスをすると、驚きにキャプテンは目を見張った。
みるみるうちに真っ赤になるキャプテンを、微笑みながら見つめた。

「手袋のお礼だよ!ありがと、キャプテン!!」





あぁなんて…彼は愛しいのだろうか。
そんなことを考えてしまう僕は、やはりキャプテンのことが好きなんだと思う。



作品名:なごり雪 作家名:織牛 宮彦