なごり雪
雷門中グラウンドは、真っ白に染まっていた。
今年最後の、なごり雪。
こんな光景、白恋中ではたいして珍しいものではないのだが、皆には珍しいらしく、特に綱海くんあたりがはしゃいで走りまわっていた。キャプテンまで室内トレーニングもそこそこに外へと走り出して、僕は思わず笑ってしまった。立向居くんが作った三匹の雪兎を眺めていると、冷たい風が頬を撫でる。
(…そこまで雪、好きでもないしなぁ)
…アツヤが居たころは、二人で遊んでたな。
「―アツヤ」
思わず声に出してしまったのにも気付かず、感傷的な気分が高まり、空を仰ぐと、…キャプテンの顔がすぐそばにあった。顔には出さなかったけど少し驚いた。
キャプテンが僕のすぐ横に腰かけた。
「吹雪は、雪で遊ばないのか?」
とまどいを笑顔で隠して、必死に答えを取り繕う。
「さ、むいから、ね」
するとキャプテンはすごく真剣な顔になって少し考え込んだ。
そして、ぽん、と両手を打ち合わせて僕に向きなおった。
「そーだ!」
キャプテンはいそいそと自分の左手の手袋を外した。
グラウンドの方へと二、三歩かけだして、それから僕に手袋を投げてきた。
「それ、貸すよ!」
キャプテンに返そうかとも考えたが、手袋を着けてみた。
「あった…かい、ね」
するとキャプテンは得意そうな笑みを浮かべて、自慢気に言う。
「だろ!雪合戦しようぜ!」
貸してもらった手袋は、キャプテンの体温で暖かかった。
「キャプテーン!!」
呼ぶと、キャプテンはすぐ振り向いた。
追いついて、募るイタズラ心を抑えつつ話しかける。
「キャプテン、目、瞑って!」
頭に『?』と浮かべつつも疑うことなく目を閉じたキャプテンを、僕は少し意地悪な気持ちで眺める。そしてそっと…その額に唇を寄せた。
そっとキスをすると、驚きにキャプテンは目を見張った。
みるみるうちに真っ赤になるキャプテンを、微笑みながら見つめた。
「手袋のお礼だよ!ありがと、キャプテン!!」
あぁなんて…彼は愛しいのだろうか。
そんなことを考えてしまう僕は、やはりキャプテンのことが好きなんだと思う。