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ジェラート日和

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俺は戦うことが嫌いだ。痛いことが嫌いだ。昔から…ああ、そうだ、あと面倒なことも嫌いだった。なのにどういう因果か、今はマフィアのボスなんか痛くて面倒なことをやっていたりする。でかくてやわらかい椅子に体を埋めながら事務処理に明け暮れる日々…。
椅子は兎も角として、事務処理なんかサラリーマンにでも経験出来るし、休みももっとあっただろう。もう何ヵ月も缶詰状態だ。青い空の下、気に入りの店でジェラートでも食べられたら仕事ももっと捗ると思うんだが。どうだろうか。思いはすれど、長年付き合ってきた家庭教師様にはそんな言い分すら言えやしない。口に出せば鉛玉。良くて長い足をしならせた蹴りが飛んでくるはずだ。まあ、つまりはそれ、何よりサラリーマンは血生臭い喧騒に巻き込まれることなんかない。大なく小なく並がいい。なんて昔懐かしい母校の校歌を思い出す。
 もう、十年も経ってしまった。

「手元がお留守になってるよ」
「休憩中です」
「長い休憩だね」

 十年も経ってしまったというのにこの人は相変わらずドアから入ってこない。開け放たれた窓から乾いた風が入り込み、薄く透けたカーテンをひらひらと揺らめかせた。

「ねえ雲雀さん、ジェラートでも食べに行きませんか?」
「デートの誘いなら君のベッドが良いな」
「やだなあ、こんなに天気が良いんですよ。たまには健全なデートでも良いじゃないですか」
「たまには?たまに会った恋人がすることがアイス屋?ふざけてるの?」

 にこにこ笑顔の下では沸々と怒りのゲージが上がっていくのが見える。昔の俺なら文句を言う隙も与えられず、頭から食べられていただろう。この真っ黒い獣に。俺だって伊達に裏小路を渡って来たわけじゃない。

「いいじゃないですか、アイスクリーム」
「嫌だ」

「そこまでだバカップル」

 雲雀が開けたままにしていた窓からはこれまた真っ黒い少年。ドン・ボンゴレ家庭教師様である。

「リ、リボーン…」
「この未処理書類ほったらかしてデートだあ?追加もまだ残ってんぞ」

 何処からだしたのか、追加のサイン待ち書類がわんさか、机から溢れるようにのせられていく。

「休憩は十分とっただろう?さっさと働けダメツナが!」

 おっかない先生の罵倒を背に受けて、頬をかすめる銃弾に冷や汗をかきながら。ボスは久しぶりのデートにしけこんだ。
 冷たいジェラートの後にしっかり頭の先から爪先まで頂かれ、後日痛む体を引きずって山になった書類を殺意剥き出しの監視付きで片付けることになろうとも。
 それなりに楽しいジェラート日和であった。

作品名:ジェラート日和 作家名:吾雀