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僕だって男なんです。

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何がどうしてこうなった。





喧嘩人形で池袋最強と名高い――本人にとっては大変不名誉で不本意な仇名だ――平和島静雄は、池袋にあるアパートの自室でだらだらと汗を流していた。
言っておくが、今の季節は冬だ。冬将軍が張り切って寒風を吐き散らす季節だ。けしてかんかんの太陽が照りつける夏ではない。そしていくら喧嘩人形と称され規格外の強さと頑丈さを持っている静雄といえど、暑いやら寒いやらの感覚は他の人間とあまり変わりはしない。
では何故、滝のような汗を流しているか。
その原因はたった一つで、
ぴくりと動いた手を抑えつけるように、ぱしんっと音を立てて載った静雄の手よりも小さく白い手。
「駄目です」
「・・・帝人」
「そんな声出しても駄目です」
大きな蒼い眸が咎めるように強く見据えた。


「僕がいいって言うまで、静雄さんは動いちゃ駄目ですからね」


華奢な肢体で静雄の腰を跨ぎ、身を乗りだしてこちらを見つめる恋人の視線に、静雄はだらりとまた汗を流しながら、こくん、と頷いた。
平和島静雄が大量の汗をかく原因とはもう一目瞭然、恋人である竜ヶ峰帝人に何故か押し倒されていう状況にあったから、であった。



正直静雄にはどうしてこんな展開になったのか見当も付かない。
久しぶりに静雄の仕事の休みが土日にあたったので、恋人である竜ヶ峰帝人に泊りに来ないかと誘った。それを帝人は二つ返事で了承してくれて、金曜日の夕方には合流し夕飯のおかずを買って2人並んで静雄のアパートに帰ってきた。
お互い偏りがちな食生活――二人で食べる贅沢を味わって以来一人の食事の味気無さがさらに増した――を取り戻すみたいに少し豪華な夕飯を食べ、食後をテレビを見ながらまったりと堪能していた。
のだが、その時帝人の中で何が琴線に触れたのか、帝人はおもむろに静雄を見つめ、突然「静雄さん横になってください」と言ってきたのだ。
「・・・・は?」
「あ、横が無理なら上半身は起こしてていいです。でも足は伸ばしてください」
「お、おい帝人」
いくら池袋最強でも可愛い恋人の突拍子も無い言葉にろくな抵抗もできず、結局素直に従い長い足を伸ばし、両手は上半身を支えているようにして床にぺたりと置いた。
これでいいのか、と静雄が言おうとした矢先、帝人が「よいしょ」と何と静雄の腰を跨いでどかりと座ったのだ。
「!?」
思わず手を伸ばそうとした静雄を、大きな眸が「駄目です」と牽制する。いつになく真剣かつ迫力のある顔がちょっとだけ怖かった。
「静雄さんは動いちゃ駄目です」
「いや、帝人な」
「僕に指一本触れても駄目です」
「だから、」
「破ったら暫く静雄さん家に泊りにきません。行きませんったら行きません」
その一言に静雄は負け、今に至る。所詮惚れたが負け、なのだ。

肩に添えられた小さな手。腰にのせられた華奢な肢体に熱が上がりそうなのを必死で抑えながら、静雄は律儀に恋人の動向を待つ。待ち続ける。
だが、あの宣言以降帝人は口を閉ざし、考え込むように瞼を伏せているだけで、ある意味静雄は俗に言う『焦らしプレイなう』な状態だ。正直辛い。
そろそろ声を掛けるべきか否か悩んでいると、漸く帝人の視線がふわりと上がり、静雄を見た。
そこにあった表情に静雄は息を呑んだ。




「今日のキスは、僕からします」




この時、赤く濡れた唇を凝視したのは男として、何より恋人として、間違ってなかったと思う。





「は、」
「突然何をって思われるかもしれないですけど!でも、僕ずっと思ってたんですっ。静雄さんと恋人で、抱きしめてもらうのも、だ、抱いてもらうのももちろん嬉しくてたまらないんですけど、でも、その不満とかそんなんじゃなくて、その、僕だって、男なんです!」
いやそれはもう両手で収まりきれないほど隅々まで堪能したからよくわかっているけども。
肩に置かれた手にぎゅううっと力が入った。しかしそれどころではない静雄はただ目の前の赤い顔の恋人を見つめるだけだ。
「静雄さんは大人で、僕よりもこういうことには経験あるってわかってます、それに、じょ、上手だってことも。で、でも僕だって男なんですっ、好きな人には自分からキスしたいとか、そんな欲求だってあるんです!だからっ」
じわりと滲む蒼に思わずこくり、と唾を飲み込んだ。
「今日は、僕からのキスで、我慢してください」
ここで無理だと言える男が居たら、俺は是非ともお目に掛かりたい。ちくしょう、何だこの可愛い生き物。
嬉しくてたまらないとか、好きな人にはキスしたいとか、僕からするとか、一々可愛いこと言いやがってこんちくしょう。俺が大人で年上なのはしょうがねぇし、俺がその分見栄張ってんのお前知らないだろうが。経験とかぶっちゃけそんなねぇよ、上手とかんなこと言われたら理性ぶっ飛ばしてマジ張り切っちまいたくなるほどヘタレな奴なんだよ俺は!
そんな静雄の葛藤を余所に、細い手が肩から離れ、頬に添えられる。僅かな震えすら熱になるのが今は酷く困る。噛みつきたい。
静雄にとって何よりも誰よりも極上の餌が目の前に居るのに、その餌は吐息が掛かる距離でもう一度囁く声が静雄を甘く縛る。
「うごいちゃ、だめですからね」
声と共に降ってきた熱に、静雄は抱き潰してやりたくてたまらない衝動を堪えるので精いっぱいだった。








とはいえ、結局我慢しきれなかった静雄は積り積った欲求を解消すべく恋人に色々とご無体をしてしまった。
翌朝、枕を抱えたままむくれる恋人に静雄は大真面目な顔をして言った。
「今回は持ってかれたけど、次は思う存分堪能するから、またキスしてくれよな」
枕が飛んできたのは言うまでもない。
作品名:僕だって男なんです。 作家名:いの