よりみち
「Buon giorno! 沢田綱吉」
「げっ」
学校からの返り道、六道骸に見つかった。
「なんでいるんだよ」
げんなりして言うと彼はにこりと笑いながら隣を平行して歩いてくる。
「今日は調子がよかったのでクロームに代わってもらいました」
「んで、なんでついてくるの」
「未来の僕の体なのですから今のうちに行動パターンを覚えておくのも仕事のうちです」
その答えにますますげんなりしながら綱吉は歩き続ける。
「まぁいいけど…」
そのまま綱吉は細い路地に入っていく。骸はその小さい背中を追いながらついていった。
(全く無防備な背中ですねぇ)ついて行きながら、物騒なことを考えていると、彼の標的は細い路地をちょろちょろと進んでゆく。まさか撒こうとしているのではないかと疑い始めたとき彼の背中がふいに止まった。その前に『らーめん』とだけ書かれた暖簾が下がっており、ここが彼の目的地だったのだと気付く。そのまま綱吉が店の中へは行っていくので骸も後に続いた。
古そうだが掃除がちゃんと行き届いた店内をすすみ、綱吉はカウンターに座った。
彼は特に何も言わなかったので骸もその隣に腰掛ける。厨房の店主がちらりと目線をあげ、
「ご注文は?」
と呟いた。
沢田綱吉は品書きも見ないで、味噌ラーメンと注文している。そして目線で自分をみた。
「同じものを」
店主は小さく頷いて湯気の中で動き始めた。
「よく来るんですか?」
骸が隣に尋ねると
「体育があったときとか、腹がへったときにたまに来るよ」
沢田綱吉はさして何も考えていないように答える。まぁ本当に何も考えていないのだろう。
「よくこんな店知ってましたね」
さらに骸が尋ねると
「迷って適当に道歩いてたら見つけたんだよ」
「ボンゴレのボスが迷子になるなど滑稽ですね」
骸が茶化すと沢田綱吉はマフィアになんかならないからと嫌な顔をしている。
また骸が話しかけようとしたとき、店主が『お待ちどう』とごつごつした手で目の前にラーメンを置いた。運ばれたラーメンの湯気の白さと味噌の匂いにつられて、話しかけようとした内容を忘れてしまった。
ラーメンはひき肉と芯が残っていそうなもやしとシナチク、そして大量の葱が盛ってある。いかにも味噌ラーメンというようなシンプルなラーメンだ。彼が、んっと割り箸を差し出したのを受け取りパチンと割る。
彼がずぞっとラーメンをすすり始めたので骸も彼に習い一気に麺をすすった。
旨い。骸は軽く驚きながら麺をすする。太めの麺にひき肉と少しこてりとした汁が絡まり体を温める。そこに太めに刻んだ葱の刺激がたまらなかった。綱吉と骸は無言でラーメンをすする。湯気が顔にあたり鼻水がでる。綱吉がまた、んっとポケットティッシュを差し出した。
慣れている。これはラーメンを食べるときの作法なのか…と考えながら、ありがとうございますと受け取る。そのまま無言で食べ続け、汁を満足するまで飲み干した後やっと顔を上げた。
「美味しかったです。」
一言そう言うと、彼は満足そうな顔でにこりと笑った。
次はクロームと犬と千種を連れて来ようと思った。
了