せいじゃがまちに
「なんかこう、総帥っていうより、むしろインチキ宗教家に近いよな」
言いながら、査察官の任務とやらで手にしていた書類を側のローテーブルの上に放り投げる。
「なんだよこの化け物みたいな支持率。あんたは神様か? 連邦のお偉方が青くなるのも分かるよな」
各コロニーごとに分けられた世論調査の結果を指差して、アムロは深々と溜息をつき、向かいのソファにゆったりと腰を下ろす深紅の服装の男を見上げた。
シャアは特に照れる風でもなく手にしたカップから優雅な仕草で紅茶を飲み、にっこりと微笑む。
「有り難い話だ。日々の精進の結果だと真摯に受け止めてより一層励むことにしよう」
「そういう、一般答弁みたいな答えはよせって」
人形のように整った美貌に表向きの営業用スマイルを張り付けたシャアに、アムロは思いきり顔を顰めた。
「政治家辞めて、宗教家に転向したらどうだ、色男」
「そうだな、ネオ・ジオンの治世が安定したら考えておこう。謎の宗教団体・『赤い彗星』というのもなかなか興味深い」
「……いや、そのネーミングはどうかと思う、俺は」
やっぱりあなたは政治家向きだ、散文的だ、と呻きつつ、アムロはソファの背にだらしなくもたれ掛かった。
「なぁ、そこの神様」
「なんだね?」
「……堂々と返事をするか、呆れるな」
「だって、君が呼ぶから」
しゃあしゃあと言ってのける男に溜息をつきながら、アムロは続けた。
「政治家なら、裏切ってもいい。けれど、神様は人を裏切っちゃ駄目だ」
「……それは君のモットーなのかね?」
「黙って聞けよ。あんたはスペースノイドの希望の星だ。でも」
そこで言葉を切り、アムロは立ち上がるとシャアの側までゆっくりと近付いて、その手からカップを取り上げてテーブルの上に置く。
「あなたは、……俺の神様だ」
言いながら顔を寄せられて、シャアは嬉しそうに微笑んだ。
「光栄だな」
「なんでもしてやる、なんだって与えてやる。……だから、裏切るなよ、俺だけは」
そう言い切ると、ついと指を伸ばしてシャアの顎を掬い上げ、矢車草色の双眸をひたりと見据えてなぁ、神様と挑戦的に囁く。
「俺の信心を裏切ったら、殺すから」
「怖い怖い」
シャアは笑いながらその手を取ると、恭しく掌に口付けて誓うよ、と微笑んだ。
「無論裏切りなどしないとも。私は君の前でだけは、なんにでもなれるのだから」
そう粛々と告げる金髪の男には、確かにアムロの言葉に逆らう必要など何一つなかった。
むしろ自分自身がただの信者に過ぎないことなど、とうに身に染みて知っていたので。
終。