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ガラナ

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それはある日の午後のお茶を、珍しく総帥の執務室で楽しんでいた時のことだった。
 たまたま居合わせたカミーユやナナイも同席していたその席で、シャアがふと思いついたようにカミーユに向かって問いかける。

「そういえば、カミーユ」
「なんですか? 総帥」
「君の今着ている白衣だが、ハロウィンに貸して貰ってもいいか」
「……ハロウィン、ですか?」

 驚いたように目を見開くカミーユに、シャアが頷いてみせた。

「今年はその日一日、仮装で登庁することに決まっただろう、確か」
「ええ、女性職員の組合からの要望で」

 ナナイがスケジュールを開きながら言い、やや呆れた顔でシャアの方を見やった。

「福利厚生が完全に行き届いているわけでもないし、連邦軍との緊張状態も漸く少しは緩和の方向に向かっているので、たまにはお祭りの一つも良いだろうと総帥がご決済なさったのでしたわね」

 まさかご自分のためだったのですか、という視線で見つめられて、シャアは苦笑してまさかと首を振った。

「いいや。今日、ガトーがそんなことを言っていたのを聞いたもので、少しね。彼は相当悩んでいたようだぞ、職務に差し支えないでかつ仮装だと認められるにはどうしたらいいのかと」

 確か、当日ドレスコードのチェックをやると言っていただろう、玄関で、というシャアの言葉にナナイがその通りです、と相槌を打つ。

「生真面目ですからね、ガトー少佐は」

 カミーユが頷いて、その後ででも、どうして白衣ですか?とシャアに尋ねてきた。

「総帥ならもっと似合いそうな仮装があるでしょう、ドラキュラとか」
「そういう分かり易いのも悪くはないが、私がドラキュラだと決まり過ぎていて嫌味だろう?」
「ヌケヌケとご自分で仰る辺りも相当嫌味だと思いますがね」

 遠慮のない応酬をする嘗ての師匠と弟子の間に挟まれたナナイは上品にお茶請けのパンプキンパイに手をつけながら口を開いた。

「でしたら、私はナースにでも立候補させて頂こうかしら。執務室ごと医局に引っ越しすれば執務に影響はありませんし」
「……ナナイ、そんな日まで私を解放してくれないつもりかね」

 がっくりと項垂れるシャアに、カミーユがにやりと笑って駄目ですよナナイさん、と追い打ちをかける。

「どうかな。総帥、本当はアムロさんに日頃の自分とは違う理知的な姿を見せつけたいとか、案外そんなんじゃないですか?」
「カミーユ、私はそこまで打算的な男ではないぞ! 第一、日頃と違うとは何かね、失礼な」

 シャアは慌てて反論したが、僅かに口調に動揺が見られたので、折角取り繕った表情もやや説得力に欠ける物となった。

「総帥……結構いじらしいところもあるんですね。それともまさか倦怠期?」
「だから、そうではないと言っているのに! カミーユ、アムロには私が当日どんな格好をするのか黙っていてくれたまえよ」
「はいはい。じゃあ、僕はどうしようかな」

 仮装できるようなネタがあんまり思いつかないと首を捻るカミーユに向かって、ナナイが綺麗に微笑みながら言う。

「あら、でしたら総帥と衣装を交換するのはいかがですか? 執務室はお貸しいたします」
「……それって、医局からでた患者を執務室で僕が診るってことですか?」

 頂けないなー、というよりそんなど派手な真っ赤な総帥服着たくないなー、とぼやくカミーユに、シャアが前々から知っていたが、本当に失礼だな君は、と顔を顰める。

「それでは、君のサイズの総帥服を至急手配しよう。礼服でいいのだろう?」
「って、決定なんですか!?」
「安心したまえ、白衣も君のは借りないことにするから。一日総帥というのもなかなか乙な仕事かもしれないぞ?」
「そんな、どっかのキャンギャルじゃないんですから!」

 早速メモを控えるナナイになに本気にしてるんですか、と抗議を唱えた後で、ふとカミーユが何かに気付いたようにシャアを振り返った。

「そういえば、アムロさん自身はどんな格好をするつもりなんですかね?」
「さあ、私は聞いていないのだが、モビルスーツ部隊と何か考えると言っていたな」
「そうですか。ギュネイでも問い詰めれば吐くかな」

 しれっとなかなか過激な発言をしたカミーユは、空になったケーキ皿を置いてご馳走様でした、とそこで立ち上がった。

「じゃ、総帥には白衣と眼鏡も用意しておきますね。たまには医局の視察もいいでしょう。折角ですから市内の病院でも回って、総帥巡回とかしてきてくださいよ」
「カミーユ、それはなにか違う気もするのだが……」
「まぁ、そういわずに。……そうか、アムロさんの仮装か。総帥がドクターなら、ナースのコスプレをして欲しかったんじゃないですか? 純白の白衣の天使〜、なんて」

 ぼそっと呟いたカミーユに、ナナイがはっとしたように顔を上げる。シャアは渋い顔でカミーユ、冗談は止したまえ、などと言っている。

「あ、ちなみに総帥、ナースが手当をしたり検温するのは患者であって、医者じゃありませんよ?」
「そんなことは分かっている! 全く、早く仕事に戻りたまえ!」

 憮然とした表情で言い放つシャアの前で、ナナイも席から立ち上がった。

「では、私も仕事に戻らせて頂きます。私の方でも独自にアムロ大尉の仮装については調査しておきますわ」

 ナナイにもそう言われ、シャアは苦笑してそれではお願いしようか、と言った。すると、ナナイとカミーユは何故か二人とも満面の笑顔で任せてください、とサムズアップの勢いで返事を返して立ち去る。

 ハロウィン当日、当然のように一目白衣に細縁の眼鏡のシャアを診ようと取り立てて急ぎもしない決済事項を願う人々が長蛇の列になった医務室の中で、カミーユのデスクに座って機嫌良く聴診器を首からかけて書類にペンを走らせるシャアの側で、カミーユとナナイにないこと九割の話を吹き込まれたアムロが真っ赤な顔で看護師姿で付き添って、次々と押し寄せる来訪者にお菓子を配っていたのは言うまでもない。

 ちなみに同じ頃、執務室で一日総帥のタスキを掛けさせられたカミーユがクサった表情で、ナナイにお茶を淹れて貰ったりしながら総帥親衛隊の黒髪の青年を顎で扱き使っていたのもまた言うまでもない出来事であった。


(白衣は仮装ですか総帥というツッコミはなしの方向で。)
作品名:ガラナ 作家名:とりせ