七月七日、晴れ
短冊を渡したら怪訝そうな顔をされたので、生まれた地域に伝わるフォークロア的伝承を一から話してやることになった。
大体この手の蘊蓄はシャアの方が詳しくてアムロは聞き手に回る方が多かったから、新鮮な感じだ。
「…だから、織り姫と彦星は罰として天の川の両岸に隔てられてしまって、一年間真面目に働けば七月七日の夜に白鳥の橋を渡って会うことが出来るんだよ。」
「ほう。…グリース神話のものとは随分違うな。」
シャアが返事代わりにミルキーウェイの伝説を聞かせてくれるのをBGMにしながら、アムロは黙々と短冊を書いていた。
「…できた!」
横合いから覗き込んだシャアが首を振る。
「…アムロ、『νガンダムの改造費』というのは願い事ではなくて上申書なんじゃないのか…?」
「いいんだよ、これをブライトの目に付くところに吊って…。」
「全然天に祈ってないじゃないか。」
「いやいや、遠くのイエス様より近くのブライト様々です。」
「……君はキリスト教徒でもないだろう、全く。」
本当にいい加減な奴だなと苦笑しながら、シャアは己の手の中の赤い短冊に視線を落とした。
———なんていうか。
もしも『アムロと二人でいつまでも幸せに暮らせますように』とか書きやがったら没収しようと不穏な気配を知覚して一瞬身構えると、シャアはそういう考えも浮かんだようではあったが一瞬で何故か消し、代わりに透明に切なげな表情で顔を上げてアムロを見た。
「私と君との間も渡してくれるだろうか、白鳥という名の女神が。」
その後でやっぱり言うのではなかったと言うように首を振る。
「…いや、そんな願いをする必要もない、か。」
七年に一度のようで切ない限りだが、とシャアが苦笑したので、アムロはララァについてのコメントは聞かなかったことにして肩をすくめた。
「アホらしい。天の川になる程度の星の屑ならνガンダムのフィンファンネルで吹き飛ばして風穴ブチ空けとくよ。」
だからあなたはそこをサザビーででも百式ででも渡ってきたら?とあっけらかんと言われ、シャアは思い切り吹き出した。
「では遠慮なく行かせて頂こう。」
「どうぞ、俺が飽きてどっか余所に移動しちゃう前にね。」
「三倍速で君の元に行くよ。」
俄然張り切るアルタイルに、今年の七夕は晴れたら良いね、とベガが笑ってみせた。
「晴れたら一緒に星を見ようか。特等席で。」
その意味をアムロの悪戯っぽい微笑みで理解したシャアがおいおい、とエースパイロットを窘める。
「…ブライトが星を見るだけでνガンダムとサザビーを出してくれると思うか?」
「そこはそれ。…哨戒とか言って無理矢理出撃しちゃえば。」
あなたと俺、明日ホラ丁度一緒の当直シフト、と見せられた予定表にシャアが驚いたように眉を上げた。
その後で拳を上げてアムロの方に差し出す。
「驚いた偶然だな、シフト管理責任者のアムロ大尉。」
アムロもにっこりと笑う。
同じように片手を拳にして出し、シャアの出した拳にこつんと当てた。
「うん、俺も吃驚してるんだ、クワトロ大尉。」
どうやらこちらの七夕は、随分と甘い逢瀬になりそうだった。