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ぼくをひたすあおいみず

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君は魚みたいだ。そう言って彼奴が笑うから。

「魚みたいだね」
奴は窓越しに海を眺めながら、まるで呆けたように言う。
「真っ青な魚だ。しなやかで、うつくしい魚」
「誉めているのかな」
「そうとも」
うーんと伸びをして、それから奴は僕に向けてにっこり笑った。僕は薄く笑い返して、彼の側へ腰を下ろす。夕暮れ。教室。まるで映画の一シーンのように静まり返っている。

「お前は蟹みたいだ」
「誉めてる?」
「もちろん……冗談。そんな変な顔するな」

苦い顔をした奴が、タクトが曖昧に頷いた。スガタの冗談はどこまで本気なのかわからないよ、なんて失礼な。
「僕は自分が魚に似ているなんて思わないよ」
「どうして?」
「言わせるのか?」
「あー……」
「タクトの察しの良いところが、僕は好きだよ」
「誉めてる?」
「多分ね」
タクトは気まずそうに頭を掻いて、また海を見た。夕日はちょうど海に沈んで行くところだ。海に溺れてまた生まれる太陽。海には太陽以外何もありはしなかった。果てがない。僕は逃げられない。

「海は嫌い?」
「嫌いで大好き。好きで大嫌い」
「また難しいことを言う…」
「察してくれ」
「無茶言うよ」
「好きだよ」
僕は席を立った。静かな教室に響く椅子の音。背中に彼の視線を感じながら窓を開ける。

「あんなに美しいものが他にあると思う?」
「……どうだろう」

思いがけない反応に振り返ると、途端に視線が絡んだ。拗ねたような焦ったような視線に驚く。首を傾げると、奴は機嫌を損ねたように顔を逸らした。

「海は嫌い?」
「好きとか嫌いとかじゃなくて」
「うん」
「怖いよ」

奴はゆっくりと席を立った。椅子の音。靴音。彼は僕の横をすり抜けてベランダに出る。つられてベランダに出る僕。彼は振り返らずに言う。君はやっぱり魚みたいだ。
「そうかな」
「掴み所がない」
「そう?」
「目を離したらいなくなりそう」
「逃げられやしないのに?」
「それでも」
「塩辛いのは得意じゃない」
奴が振り返った。沈みかけた夕日の赤にその髪が融ける。君は太陽に似ている。一度海で死んだ君。彼の一部はこの海のどこかでまだ死んでいるだろうか。

僕の世界を包む海。僕の世界を区切る海。僕は海が好きだ。焦がれるほどに好きだ。妬ましいくらいに好きだ。羨望と嫉妬のアンビヴァレンス。彼を殺したこの海が大好きだ。僕を殺さないこの海が大嫌いだ。


僕を侵す青い水。

作品名:ぼくをひたすあおいみず 作家名:みざき