くろねこの
それは少しの買い物がてら散歩道を歩いていた途中にいた。
真っ黒な真っ黒な子猫さん。
でもよく見ると四本足の先っぽだけ靴下のように白く色が違った。
「靴下ねこさんですか。Guten tag。日向ぼっこですか?」
話しかけても逃げない辺りもしかしたら飼い猫だろうか?
そのまま近づいてもやっぱり子猫は逃げなかった。
隣に腰掛てそのままその毛並みを触らせてもらう。
‥‥や、柔らかいです!!
少しでも力を入れたらそのまま潰してしまいそうでちょっとだけ怖かったけど思う存分その柔らかい毛並みに悶えた。
子猫も大切にされているというのが伝わっているのか、嫌がりもせずその内ノドをゴロゴロと鳴らしてくれた。
‥可愛いです。
愛らしい小動物に目を細めた。
今日は暖かいしと手袋を外してきていてよかった。
横着して車で出ないでよかった。
子猫がここで日向ぼっこをしてくれていてよかった。
でもこんなに可愛いのに警戒心もなくて大丈夫ですか?
他人に対してこんなに無防備で大丈夫ですか?
野生が強い生き物なのか、声にしていないU房の声でも聞こえたのかの様にふと子猫は顔を上げた。
ふっと笑いがこみ上げる。
「大丈夫なのですね」
これはこれは。
御見それいりました。
優しく頭をなでてあげれば子猫はまたなすがままにしてくれた。
まるでこちらの考えはすべて見透かされているかのようだ。
こんなに小さな生き物なのに。
そういえば、彼もそんな所があった気がする。
いつもは騒がしく人の気持ち等ちっとも伝わらない風でありながらふとした時の勘の鋭さにどきりとさせられるのだ。
ああ、でも何度言っても靴下をはいてとお願いしてもはいてくれないだけこの子猫より頑固で可愛くないかもしれない。
「本当に困った人です」
にゃ~。
独り言にお返事を頂いてしまいました。
眉尻が下がる。
「そろそろご飯の時間です。よかったらご一緒にいかがですか?」
お返事ネコさんに気をよくしたのでお誘いしてみる。
けどネコさんはここまでと見切りでもつけたのか腰を上げると優雅にしっぽを揺らして歩いていってしまった。
残念。
悪いどら猫にはなれなかったみたいです。
仕方がないのでこの気持ちを伝えるべく彼に手紙でも書いてみようと思った。
会いたいです。
声を聞いて、そして色々お話したいです。
そしてまた彼に靴下をちゃんと履いてくださいとお願いしてみようと思う。
その時の為に白い靴下でも用意してみるのも面白いかもしれない。
また彼の事だからのらりくらりと逃げられてしまうとは思うのだけど。
<了>