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庭先に花が咲いた。
数ヶ月前に半兵衛が、官兵衛の邸の庭先に埋めた花だ。数種類の花の種を持ってきて、どれがいいかと官兵衛に聞いてきたのだが生憎官兵衛は花に詳しくは無い。故に半兵衛が持ってきた種の中から数種類を庭の片隅に埋めた。
官兵衛の邸の庭には花など一切なく、ただ緑が生い茂る庭であったが綺麗に手入れをされていた。その一角に、半兵衛が半ば強制的に官兵衛と埋めた花壇を作ったのだ。
その花が、咲いていた。
一遍に、と言う訳にはいかなかったが暫く雑務に追われ忙しい日々を過ごしていた官兵衛にとっては、一遍に咲いたようにすら見えた。何故半兵衛が官兵衛の邸に植えたか等はわからない。植えるならば己の邸にすればいいものを、とも思ったが半兵衛なりの心遣いなのだろうと、思った。
さして外に出ることのない官兵衛が、人目を忍んでよく庭先に下りて時折水を遣ったりもしていた。恐らく普段の官兵衛を知らない者が見たら驚くであろう。そう思って、人前では決して興味を示さないでいた。
派手な色の花は無い。半兵衛が選んで、白や青、淡い色の花ばかりを選んでいた。官兵衛からすれば同じ種に見える物の区別がよくつくものだと、そう思っていたのだがやはり半兵衛は官兵衛の好みを知り得ている。お互い好みが似ていると、こういうときは便利なものだと一人ごちて花の前に腰を下ろす。衣服の裾が地面に着いたが些細な事など気にはしない。片隅に置かれた、時折水を与えていた桶を見遣る。
水がない。
汲んで来なければ、とそう思ったが腰を上げはしなかった。咲き誇る花の根元を手折って、一つ、また一つと掌へ置いていく。次第にその掌が一杯になると、今度は抱え込むようにしてその片手一杯に淡い花を手にした。

『半兵衛にでも見せてやろう』

恐らく、植えた本人が一番見たいであろう。此処最近の忙しさも相まって半兵衛とは久しく逢っていない。植えた時にも、半兵衛が目を放すと官兵衛は世話をしなくなるのではないか等、冗談めかして言っていたので、それを見返してやろうと言う気も少なからずあったのだ。たとえ花であろうと、やり始めた事は最後まで貫き通すのだと、そういう意地もあった。
几帳面な官兵衛らしく、腕の中できちんと収まる花はまるで一種の贈り物のようだ。花など、男に上げるものではないと言う事もわかってはいるのだが、彼が植えたのだから仕方がない。官兵衛からの贈り物ではない、半兵衛からの預かり物を返すだけだ。
だがそう思えば思うほど官兵衛は己が意識をし過ぎなのではないかという感情に振り回される。空いた片手でグシャリと前髪を押さえゆっくりと首を左右へと振った。そうではないのだと、覚えのない感情に言い聞かせるようにして自分自身よくわからない説得を、己に向けてした。


ジャリッジャリッとそう整っていない道を歩く。
馬に乗っては花が散る、そう思って徒歩で来たのだがせめて輿を用意すればよかったと後悔したのは人目のある道を通る時だ。顔見知りは皆、あの官兵衛がと言うような顔をする。勇気のある者などは「女にやるのか」と揶揄するように含みのある声で問い掛けてきたが、聞こえない振りをした。
やるのではなく、返しに行くのだとそういう言葉が掛かる度に己に言い聞かせるよう何度も反芻する。しかし頭の片隅で、いつも逢いに来るのは半兵衛の方なので官兵衛が訪れたと知ると半兵衛はどのような顔をするのか、そんな事すら考えていた。半兵衛に出逢い、想いを交わした後から官兵衛の思考には覚えのないものが混ざり始める。それは決して嫌な感情では無いのだが、経験が無いだけに多少なりと翻弄はされる。無論、それを顔に出すことは無いのだが。
暫く歩いて、漸く人通りが少なくなり始めると官兵衛は半兵衛が待つ元へと足を進める。少しばかり急な石段を登り切ると、そこが半兵衛の居だ。だが、半兵衛へと近づいていくにつれ歩調を緩めるのは官兵衛なりの抵抗で、逢いたくて急いできた、等と勘違いされては困ると思ってのこと。

「半兵衛よ、久しいな。卿の育てた花が咲いた故、見せに来た」

半兵衛の前に立ち、珍しくも口端を僅かに上げ官兵衛が笑む。半兵衛の後ろに聳え立つ大きな木のせいで出来た大きな影のせいで半兵衛の顔がよく見えず、官兵衛が僅かに目を細めると不意に一陣の風が吹き、木々の葉を揺らすと共に官兵衛の手にしていた花の表面を撫でた。僅かに花弁が舞い散り、ふわりと風に乗って半兵衛の頭部に降り立つ。
まるで半兵衛が操ったかのように綺麗に舞い落ちるものだから、官兵衛は表情にこそ出さなかったが何度か瞬きをした。それから今現在の状況を改めて理解すると可笑しさが込み上げてき、徐に腰を屈め目線を低くした。
それから一度半兵衛の胸元へ花を押しつけるようにして、足元へと置きやる。

「卿が遺した花だ。卿が居らねば、水が足りんな。また来よう、ゆるりと眠れ」

手は合わせなかった。
ただじっと石碑を見つめて、それからゆっくりと背を向けた。
ざわざわと、木々が風に揺れて音を立てる。
それが答えだと、己の胸にしまい官兵衛は元来た道を戻った。
水をやらずとも雨が、花を育てる。
それと同じように官兵衛も、半兵衛が居らずとも余生を過ごすことになるだろう。
道中、立ち止まり空を見上げる。
よく半兵衛が空を見上げ、雲の様子を眺めていた。嗚呼、雨が降りそうだ。
作品名: 作家名:たんす