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ながさせつや
ながさせつや
novelistID. 1944
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白く塗りつぶされる

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彼の、甘く焦げた肌のいろと白い疵あとの、そのなまめかしさに、めまいがする。

 リュウキュウの冬は、深夜でも早朝でもそう寒くはない。狭いベッドの中、体温が近ければ掛け布団が薄くても気にはならなかった。少し隙間があいてしまっても、つめたい空気を感じることはない。規則正しく安らかな寝息を立てている、少し年下の男の顔を見る。向かい合って眠っていたようでやたらと顔が近い。
 昨日の夜は、この男に呼ばれて部屋にきて、そのまま一緒に眠りについた。やましいことは何もない潔白の夜だったけれど、体温が近いだけで少し緊張した気もする。
 目が覚めて、することもなく、男の呼吸の音を数える。ひとつふたつ、生きている証拠だ。安らかで幼い寝顔は、この男の今までの苦労をそう見せることもなく、まるでまだ苦しい恋のひとつだって知らないみたいな無垢で彩られている。かみさまみたいな女性に恋をした、この男の恋心に恋をした。
 髪のいろも、肌のいろも、瞳のいろも、歌う声のいろも、囁く声のいろも、この男を染めているいろはどれも綺麗だと思った。それはきっと、恋がうつくしいものだからに違いない。恋されたい、この男の今までを染め上げて塗り替えるくらいに、鮮烈に。
 不意に、目に入った手のひらの白い疵あとに指を這わせる。この男のいろの中、純粋に白い右手のスティグマは、彼女への恋のあかしだった。
「妬けちゃうね」
 起き上がり、男を見下ろす。チョコレート色の手のひらを取り上げて、白い疵あとに、自分の疵を重ねるように握り締めてみる。いろが移ってしまえばいいのに。それとも、違ういろになってしまえばいいのに。
 見下ろしたままぼんやり考えて、ヒジリの眠った顔に、自分の顔を近づける。呼吸の音は相変わらず絶え間なく規則正しく響いている。男が生きているだけで嬉しくて、安堵する。
 と、思った瞬間に触れていた手のひらが握られて、声がする。少し濡れたいろをした悪戯めいた声がする。
「キス、しねぇの?」
 起きていたのか、と思った瞬間には抱きしめられていた。超過重量ギリギリのベッドは悲鳴を上げたけれど、ヒジリは楽しそうにしていた。にやにやと、いつもの笑顔で。
「珍しいことしてんなぁって思ってたんだケド、チューのひとつもしてくれるかなぁって思ってちょっと黙ってた」
「した方が良かったかい?」
「そりゃーもちろん、されたら嬉しいっしょ、なぁしていい?」
 ヒジリの瞳のなかに、自分が映っている。染め上げられているのは自分の方で、そんなことは知っている。いいよ、こたえたらそのまま唇を塞がれる。つないだ手のひらはそのままで、疵あとから全部、染まればいい。