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ネバーランドは逃走車で

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届かないかもしいれないという不安感を拭えるわけもなく、いつだって手探りで求めている。
あなたはどう感じて何を思っているのですか。そう信仰的なまでに内心思い続けている俺自信よく解らない何て笑い話にもなりはしないのだろう。


いつだって気紛れな人なのだということは知っている。また、それが職業的なものに因るのも理解し得る。構って貰えずに泣き喚くような子供でもないし、そんなことでは他人と付き合うなんて出来ないだろう。人との付き合いは相互の思い遣りやら気遣い、立場と温度を測ることだって大事なことだ。あくまでも一個人の見解に過ぎないが。さて、自分が好いておりまた好かれていると感じている人物はどうなのだろう。ちゃんと生身の36度5分の温度は共有し得ているのだろうか。肌を触れて確かめてみたい、な。
突然の振動にビクリと内心反応した。実際、多少肩やら身体が動いたかもしれない。穿き古したデニムジーズンの内ポケットに入れていた携帯電話がバイブレーションの振動と共に着信を知らせる。この振動はあまり好まない。今度からサイレントモードか好きな曲が流れる設定にしておこうと考えながら、紀田正臣は鳴り続けている携帯に手を伸ばした。表示された文字に心拍数が今までの2倍の速度で打ち始めたのが明確に分かる。こんな機械的な文字だけで反応する自分自身にまだまだ若いななんて思うのも今に始まったことではない。だって実際まだまだ若いのだ。そう、電話先に待っているだろう人に比べれば若い。釦一つ押すことで空気すら共有した気分になれる携帯電話での会話は実のところあまり好いてはいない。現代っ子を自称する自分でもこの人とは同じ場所で同じ空気のもと同じ目線でいたいななどと女々しさを表に出しきったことなんぞ考えるのだから恋愛というものは恐ろしいものだ。

「……待たせてすみません、臨也さん」
「ホントに。珍しいねー、何か都合でも悪かった?」
「いえ、そういんじゃないんですけど」
「へぇえ?ま、いいや。今から家来れる?」
「あ、丁度近くの通り歩いてたから直ぐ行けますよ」
「若しかして俺に会いに来たかったとか?」
「な、」
「そうだったら嬉しいなぁ」
「そういうのは直接言って下さい」
「無機質な機械越しに愛の言葉なんて吐かれても同一の文字に変換で送信された文字と変わらないもんね。うんうん、解るよ。メールでいくら熱烈な言葉を送られてきたって、誰かに送った言葉をコピーして貼り付けたにすぎないものかもしれない。そんな紛い物はいらないからね」
「電話越しですから本人のちゃんとした言葉に変わりはないんですけど、やっぱりちゃんと会って……」
「いいよ、待ってるから」

何の前置きもなしにプツリと繋がっていた電波は切られた。
会いたかった、逢いたかったのかもしれない。だから目的地も定めずに何となく散歩程度の気分で歩を進めていたら近くに来ていたのかもしれない。両手で丁寧に静かに折り畳んだ携帯の電源を切って元通りジーズンの内ポケットに戻した。これ以上誰かと電波を繋げる気分ではなかった。
それから短く息を吐き、透き通るほど青い空を見上げて目的地の定まったマンションに向けて歩き出した。それまで緩慢だった足の動きが少し速くなったような気さえした。気付かないように気付かないようにと思いながらも気持ちだけが段々と速まっていくのが何だか可笑しい。

チャイムを押す前に何でもない風を装う為にドアの前で表情が強張っていないか、普段通りの紀田正臣だろうかと思い両の掌で顔を覆い一度深呼吸をしてからチャイムを一度押した。両隣りと同じ素材と形で作られた量産品と同じマンションのドアーだが、ここだけが違って見えてしまうのもまた特別な存在だと考えているからに違いない。知っている。足音が近づいて来る音。一段下りてドアノブに手を伸ばす気配。自分の心臓が未だ落ち着きなく拍動している事実。

「臨也さ……っ」

開いたドアを確認して顔見知り以上の人を見たと同時に引き込まれるように抱き締められた。顔の直ぐ横の首筋から香る爽やかな香りに落ち着いてきた。知っている香り。それだけで安心出来るのだから相当信用している。信頼出来るというのとは別にして。温もりが服越しに伝わってくる。その首筋に口を寄せ触れてみる。確かな温度。気付いた彼の顔が面白いものを見つけた時のように細められて、寄せられて触れて、長い時に思える時間を玄関先で共有してようやく離してくれた。

「正臣くんが直ぐにでも触れたいって言ってるようだったから」

久しぶりに直接会った彼の第一声がそれで、何とも言えない気分になってしまった。あながち間違ってはいないが、その通りですなんて口が裂けても言いたくないし、言える訳もなかった。離してはくれたが、普段直行するリビングに通してはくれない。相も変わらず黒い両の瞳も、柔らかそうな髪(それが手に馴染むほど心地よく柔らかいのを自分は知っている)も何も指し示してはくれない。

「それで、今日はどうしたんですか?」
「うん、恋人に対する反応としては28点かな。もうちょっと可愛い台詞が欲しいなぁ。言って欲しいなぁ……言って」

嗚呼、この人は全くもって何も変わっていなかった。はいはい。そこに極悪に似た悪意を向けられないだけでも幸いと言って差し支えないだろう。あまつさえそこに甘ったるい好意を向けられているのだから喜ぶところなのだろうか。そして、そこには確かに俺で楽しんでいる節があることも分かっている。無邪気さは悪意を孕んでいるのだという言葉を飲み込んで、平常らしさを取り戻して言葉を発する。慣れている。こういう事態もこういう行為も慣れている。

「今日は何をしてくれるんですか?」
「浴槽にお湯張ったら風呂に入りたくなって、紀田くんなら一緒に入ってくれるかなと思ってね」
「……臨也さん、俺は」
「一緒が嫌なら洗ってあげようか」
「……よろこんで」

正直なところ気恥ずかしかったのかもしれない。昼間の浴室の明るさが、計算し尽くされた間接照明の類と同等レベルなほどに厭らしさを孕んでいたと、この時初めて知った。どこもかしこもしっかりと直視され顔に集まる熱をどうにかする技何て知るよしもなく、ぐちゃぐちゃにされたに等しい時間を過ごした。きれいに洗い洗い流してくれて、密着するように入った浴槽といったら!腕の中に抱きしめられた状態でしっとりと濡れた髪を飽きることなく触る彼の胸に頬を寄せる。

「君の金色の髪が一番好きだよ」

金髪ならば彼の身近にもいるだろうに。これが仮初ではないと信じることしか出来ない自分はまだ高校生でしかなく、何者でもない。大人の彼に振り回されているだけではないよな、そうではないだろう、と思考ばかりが回転する。

「臨也さん、俺はあなたの全てとまでは言いませんが恥じない程度の愛情を向けている自信があります」
「いいよ。一人の人間全てをそっくりそのまま信じきれるなんて出来ることではないと理解している」
「昼間に入るのもいいですね」
「何なら毎日でも」
「あなたとはもういいです。舐められるように見られながら洗われて触られておかしくなるかと思ってしまいましたから」
「おかしくなればいいのにね」
「……」