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私の知るあなたの愛しさ

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※4時間以内に1RTされたら、東北上越が片割れの部屋で殴りあう、シリアスな作品をかいてみましょう!
と、診断メーカに唆されて書いてしまいました。



高い位置から加速度をもって振り下ろされた拳は、違うこと無く真っ直ぐ東北に向かって来た。
上越の美しい指によって象られた拳が迫り来る瞬間、東北は身の危険を本能で察しながらも、この暴力的な感情表現を何時ものように受け止めることにした。
頬に伝わった衝撃は、勢いを殺すことはなく、東北は傾いた体を支えるために蹈鞴を踏む。
殴られた頬は傷みを通り越して無の感覚に包まれた。
「…っ」
この行為の起源について、第三者から愛ゆえかと問われれば、のろけ混じりでいかにもと首肯するだろう。しかし、実際のところ愛情というよりは相方としての責務感の方が強い。不安定な甘さで理由付けるよりも、ビジネスライクな感情で処理するほうが上越と長く在るのに相応しいと判断したためだ。
―――東北は上越を俯瞰する術には長けている。
そうえば、西の先輩は苦笑いを添えて己をそう評価してくれた。

衝撃を受け流すと同時に短い回想を終えた東北は、鋭い傷みを伴い頬に感覚が戻ってくるのを覚えた。
痛む部位を舐めてみれば、ぴり、とした刺激が伝わってくる。少し内側が切れているようだ。
やれやれとこの身に馴染んだ鉄を味わい、東北はゆっくりと上越を見上げる。


蛍光灯の薄ぼんやりとした光を背にまとい、上越の影は、東北の視線が向けられたのを知ったのだろう、僅かに肩を揺らめかせた。
その揺らぎが彼の怯えを表す時の様であることを確認し、一つため息をつく。
いい加減に取り替えなよと窘められた間接灯の光が、かちりかちりと不規則な明滅を繰り返す。今日もこの電球が交換されることはないだろう。東北は、上越と共に買い物に出掛けようと、密かに講じていた夜の逢瀬を取りやめることにした。
そして、振り下ろした右腕をその身に縮こまらせ、自らの行為を持て余している上越を傍に呼ぶ。
「ほら」
己にしては柔らかい口上で掛けた声だったが、かの人は先程と全く同じように肩を揺らし、濃緑の裾を握り締め逡巡の色を見せた。
その臆病さに東北は彼にしか判らぬ程度に目を細める。上越は突発的に行動を起こすような直情的なタイプではない。むしろその対極にある過敏さとそれを守るための慎重さという重すぎる鎧を被っている。だからこそ、箍が外れたように時々常軌を逸する彼の行為を、東北は必然として捉えていた。
人とは揺れ動く生き物だ。
そういう上越の人らしさを、東北は愛おしく思っている。
「大丈夫だ」
上越が東北を宥める時と同じように、優しい声で彼を誘う。
一歩が踏み出せないであろう彼のために、両手をそなたに向けて広げる。
そして、あの闇色の瞳がうすく涙の膜を張ったのを見つめてから、上越を抱きしめるための歩を進めた。


ごめんね、と一つ詫びの言葉を東北に落とした上越は、一頻り東北をきつく抱きしめてから、すやすやと健やかな眠りへ導かれて行った。
自らの胸の中で瞼を落とす上越の麗しい表情を見つめ、東北は漆黒の髪をそっと梳く。
頬の傷みはもうすでに微かにその存在を主張するだけになっていた。こんな風に彼が齎した傷みさえも全て無に帰するように、この体はできているし、上越もそれを無意識で感じている。己が彼を少し遠い所から見つめることが出来るように、彼は己の細胞一つ一つの命の瞬きを知り得ているのだろう。
だから、大丈夫だ。
ひとつ上越の耳垂に向けて囁くと、東北は今宵に別れを告げるため、射干玉の髪に唇を寄せた。


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おまけ

「しかし、なんで腹巻をしていただけで、俺は殴られたんだろうか」
虚しい呟きをからかうような落ち葉のざわめきに混ざって、東北の独り言は晩秋の月夜に消えていった。

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東北を抱きしめながら上越は悶々としていました。
E5と林檎がぐるりとあしらわれた腹巻してるこいつが大好きなんだよね僕!?と自問自答しながら(´・ω・`)
一番最後の情景が真っ先に浮かんできたので、シリアスには残念ながらなりませんでした。
作品名:私の知るあなたの愛しさ 作家名:鶯の谷