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不思議だけど当たり前

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 ぽぉ――――ん……。
「ド」
「せーかい!んじゃ、これは?」
 ぽぉ――――ん……。
「ソ」
「んーと……あ、合ってる!んじゃ、次は……」
「円堂」
「ん?何?」
「……楽しいのか?これが」
「楽しいっていうか、すげーよな!なあ、何で分かるんだ?」
 さっきからやっているのは、いわゆる『音当てゲーム』というヤツだ。誰かがピアノの鍵盤を押して、ピアノに背中を向けたもう1人がその音を当てる、ってヤツ。
 で、さっきから色んな鍵盤を押しているんだけど、鬼道は全部正解してるんだよな。
「何で、というか――――分かる、としか言いようが無いな」
「え〜、俺はぜんっぜんわっかんねーのに」
「音の区別はつくだろう?」
「へ?」
「例えば、」
 ぽぉーん。
 ……ぽぉーん。
「この2つの音が『違う』音だ、ということは聞き分けられるだろう?」
「あ、うん」
「後は知識と経験だ。音の呼び方と、その音が一致しているかどうかだな」
「へぇ〜……でも、それがすごいんだろ?」
「……俺にとっては、お前のそういう思考回路が『すごい』と思うぞ……」
「そっか?ん、じゃあもう1回!」
「何でそうなる」
「だって、何かこれおもしろいじゃん!なあ、もう1回!」
「……あと1回だけだぞ」
「おう!」
 これで終わりかと思うとちょっと残念な気もしたけど、とにかくあと1回。どの鍵盤を押そうか、どうしようかと考えることにしよう。
「ん〜……」
「……」
「ん〜…………とぉ……」
「……どれでもいいだろう。早く決めてくれ」
「ん――――――っ!」
 

(あ〜あ……これは時間がかかるな)
 実は音楽室の扉の前で聞き耳を立てていた風丸は、小さく苦笑を浮かべる。
 昔から、この幼馴染はこういう決断にやたらと時間がかかるのだ。
 『どっちのお菓子にする?』とうちの母親が尋ねた時に、腕を組んでうんうん唸っていた姿を思い出す。結局あの時は、いつまでたっても決まらないから2人でそれぞれの菓子を半分に分けて食べたのだ。
(今回はそういう訳にはいかないしなぁ……)
 さて、助け舟を出すべきか、このまま成り行きに任せるべきか――――。
 少し悩んで、もうしばらくこのまま傍観(?)することに決める。相手が鬼道だったから、というのが、理由としては大きい。何だかんだで鬼道は円堂の扱いが随分と上手くなっていたから、多分ほどほどの所で切り上げることができるだろう。
「ん――――っ!」
「……」
「う――――……」
「……分かった、また今度付き合ってやるから。とにかく今はあと1回だけだ」
(お、)
「っおう!約束な!」
「ああ」
 ――――ほら、やっぱり。
(流石だな……)
 ちょっと甘やかしている気がしなくもないが、今の状況を打破するには一番効果的な言葉だろう。
 ようやく最後の音を決めたらしい円堂が、力一杯(ピアノが壊れるんじゃないかと心配してしまうくらいに)押した鍵盤の音が何なのか、自分には分からない。それでも、鬼道の凛とした声は、はっきりと答えを返していた。
(……本当に、何で分かるんだ……?)
 まあ、それを尋ねてもさっきと同じような内容の台詞が帰ってくるのだろう。
(知識と経験、か……)
 
 ――――がらっ。
 
「あれ?風丸」
「――――遅いから呼びに来たんだ。2人以外のやつはもう全員修練場に集まってるぞ?」
「げ、やっべ……すぐ行こうぜ!」
 言い終わる前に走り出した円堂に、通りすがりの教師が「廊下は走るな!」なんて言ってるけど、多分聞いてない。でも、流石に自分たちはそう叫んだ教師の手前、走っていくことはできなくて。
 ギリギリ許されるであろう早足で廊下を歩きながら、隣に並んだ鬼道が「呼びに来た割には、随分とゆっくりしていたな」と囁いたのには、正直あんまり驚かなかった。
「やっぱりバレてたか」
「気付かない方がおかしい」
「円堂は?」
「アイツは色々規格外だろう」
「はは!確かにな……」
 喋りながら、少しずつスピードを上げていく。ちらりと視線を向けた先には、いつも通りゴーグルで厳重にガードされた横顔がある。
「……何だ?」
「怒ったか?」
「むしろ呆れた」
「あー……成程」
「2人ともー!早く来いよー!」
 全速力で走っていった円堂は、もう靴を履き替えたらしい。
 そもそもの原因は円堂だというのに、呑気なモノだ。
(ま、だからでこそ円堂なんだろうな……)
 調子がいい、と呆れこそすれ、憎めないのが『円堂守』という男である。
 そして何となく、アイ・コンタクトでお互いの言いたいことが分かった気になって。お互い階段を全速力で駆け下りる。
 
「修練場まで競走な!よーい、どん!」
 
 《終わり》
どこまでも勝手なやつ(でも、そこがいい)
作品名:不思議だけど当たり前 作家名:川谷圭