優しい香りにつつまれて
椅子に座っている佐久間先輩に、いつものように後ろからとびついてみた。
成(あれ?)
動かない。話さない。
佐久間先輩はじーっとしている。
顔を覗き込んでみると、目を閉じていた。
眠っているようだ。
成(なぁんだ。つまんないな…)
顔をじーっと見つめてみた。
長いまつげ、浅黒い色の肌、形のいい唇。
すべてが整っている顔だ。
しばらく見つめてから、そのあと、佐久間先輩の背中に顔をうずめてみた。
俺と大きさはそんなに変わらない背中。
成「いい香り…」
温かかい母さんの背中を思い出した。
成「母さん…」
母は田舎に住んでいて、俺が東京に来てから一度も会ってない。
父は小さい時に亡くなった。
顔は覚えていない。
でも、母は優しくて立派な人だったと、教えてくれた。
俺が旅立った日、母の目は寂しそうだった。
成(今度会いに行ってみようか)
優しい香りに包まれて、いろいろ考えていると、いつの間にか眠ってしまった。
おやすみなさい、母さん。
°・°・°・°・°おまけ・°・°・°・°・°
佐(な、何故こいつが?)
目を覚ますと、背中に、くっついて寝息をたてている後輩がいた。
表情はとても気持ち良さそうだ。
佐(…まぁ、いいか。)
昼休みが終るまで、このまま寝かしておこう。
背中にあたるぬくもりを感じて、自然と笑みがこぼれた。
(昼休みが終るまであと5分。)
(この、幸せな時間もあと5分。)
(できればこのままずっと昼休みが終りませんように。)
作品名:優しい香りにつつまれて 作家名:ジ@ピォ