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【CITY福岡】だれかに頭を洗ってもらう~【サンプル】

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だれかに頭を洗ってもらうのが心地いいのに似ているかもしれない





 最初に響いたのは机脇に落ちたオセロ駒がかつん、と床に響く音だった。
 オセロをしていて落ちたその駒はちょうど俺の付いたテーブルの真ん中の辺りから落ちて行ったので、その落ちた駒の位置は俺が手を伸ばすのもやぶさかでもない位置だった。もちろんそれを拾うべく俺は身を乗り出して駒を拾おうとしたのだ。
 俺の正面にいた奴、オセロの対戦相手も駒の位置までが俺と同じぐらいであるから、同じように、同時にその駒へと手を伸ばした。
 それで、ほぼ同時に届いたのだ。わずかに俺の方が遅かったかもしれない。俺の手が相手の手に重なった。
 お互い、駒にしか目をやっていなかったから相手の接近に気付いてはいなかった。
 そこで次の音が響いたのだ。
 思わず、といったふうに俺の手は振り払われた。俺が聞いたよりも当の発生源である人物の方がより大きく聞こえたのだろうか。俺以上にびっくりした顔で、いつも同じようなスマイル仮面をどこに放り投げてきたのかと言いたくなるような珍しい顔だった。
「こいず・・・」
「す、すみません、少々ぼーっとしていて・・・」
 俺の手を振り払った人物。パンッ、という乾いた音の発生源。いつもは浮かべないような驚愕の表情を浮かべた古泉一樹は、先程俺も拾おうとしたオセロ駒を慌てて拾い上げてボード脇に置いた。今はいつもと同じ笑顔になっているが、笑顔の中でも更にカテゴライズすれば、やはり珍しいタイプに入るであろう。
 それは『困り顔』の笑いだった。眉尻を僅かに下げて、またも重ねて「すみません」と謝罪してきた。
「いや、別にいいけど」
「手、大丈夫ですか?そんなつもりは無かったのですが、思ったより強く叩いてしまったみたいで・・・」
 音の派手さの割に大したこと無いのは本当だ。手を手ではたかれたぐらいどうにもならねぇよ。はたかれた方の手をなんでもないアピールでぷらぷら揺らせば、ほっとしたように古泉が息をついた。
 それぐらいで心配されるほどヤワではないんだがな。
「いえ、何もなかったのはもちろん喜ばしいですが、あなたがあまり不快に思われなかったようなので、それに安心したんです。普通、ただ手が触れただけで思いきり払われては不快に感じても仕方ないですし」
「驚きはしたがそんな大したことでもないだろう」
「それならよかったです。すみません」
 自分でぼーっとしていたから、と弁明した割にやたら気にして謝罪するものだから俺も気になった。
「なんかあったのか?」
「なにか、とは?」
 普段、一般的には近すぎるぐらいの距離感を持つ古泉が、俺の接近に驚くというのがそもそも珍しい。というかそれで驚いてしまうほどぼーっとしていたというのもこれまた珍しい。
 思わず気もそぞろになるような、それほど深刻な悩み事でもあったのか?
「いえ、本当にそんなことは・・・」
 続けて何か言いかけたかのごとく一度口を開いてまた閉じたのでは、その台詞に説得力はないぞ。
「なに、があったわけでなく、ええと、そうですね・・・なんと言いましょうか」
 いつもはウザイくらいによく回るその口から、ポンポンと訳の分からない言葉を俺の理解など度外視で放ってくるのにな。今の古泉は俺により正確に理解しやすいような言葉を探して考えあぐねているのだ。
 いつもそんな心遣いをしてくれれば俺の残念な脳味噌にもずいぶん優しいこととなって助かるんだがな。
「ええと、あなたの手が暖かかったので・・・」
 こいつの努力の如何に関わらず俺は古泉の発する言葉を理解するのはどうにも無理なようだ。意味がわからない。ついでに言うと気持ち悪い。
 なんだお前は。俺を血も通わない冷たい冷血漢とでも思っているのか。あまりお前に暖かい接し方をしているとは確かに言えないが、そう思われるほどとはさすがに・・・
「いえっ、そうでなく、あなたは優しいから冷たいのかな、と」
 それはよく言う『手の冷たい人間は反対に心が温かい』とかそういう謂われからきているのか?じゃ、なにか。実は仄かな期待は外れ、まさしく冷たい人間であることが証明された事に驚いたか。悪かったな。確かに俺は冷たい人間だよ。期待を裏切って悪かったな。
「違いますよ。あまりそういうものはアテにならないのだな、と思っていたんですよ」
 下手なフォローかそれは。
 というか、こいつが俺の事を『優しい』と思っていたのには驚きだ。俺の、古泉へのどの態度をもってして優しいと判断したのだ。そんなつもりはなかったんだがな。お前マゾか。
「失礼なこと言いますね。そりゃあ僕に対してはそう言い難い部分が多いですが、基本的にあなたは優しい人ですよ」
 失礼な事を言った人間にそれでもなお『優しい』との評価を下す古泉の判断基準が謎だ。
 普通なら誉められた、と感じるようなその評価もごまかしキングのこいつから言われたのでは反射的に裏読みをしてしまって嬉しくない。笑顔もすっかりいつものニヤついた笑顔に戻ってさっきの慌てようなどすっかり隠してしまっているのだからなおのこと。
「あなたは優しいですよ」

 うさんくさい!





続く