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水性ワンルーム

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 目覚まし時計が幾度となく鳴り響いている。眠気眼を白い手が擦るのはもう何度目か。あまりにだらしない様子を見かねて、ヨウスケは舌打ちをする。
「チッ、そろそろ起きろ」
 ヨウスケがそう言っても、布団の中を被ったままの体は動かない。猫のように丸くなったまま、じっとしているのだ。これはもう強行突破しかない。そう確信したヨウスケはひとつ溜息を吐いた後、布団の端を摘む。一思いに布団を引き剥がしてやれば、至極不機嫌そうな顔に出会った。
「……寒い」
 元々つり上がった目はさぞかし不機嫌そうに細まっている。いつもの事ながら、まるで猫のようだとヨウスケは思う。ご機嫌を取るように耳元に口接けを落としてやると、真っ白だった筈の顔が一気に赤く彩られた。
 思わず、口元に笑み。相手もそんなヨウスケの表情に気がついたのかもしれない。ヨウスケが剥がしたのとは別の布団を引き寄せて、また暖を取ろうとする。背中を向けているけれど、先ほど触れた耳元が赤い。あまりに面白くてその背中をそっと見守ってやると、少しまどろんだ声が部屋に響いた。
「そういえば、新しい曲を作ったんだ。起きたら……聴いてくれるか」
「ああ、久しぶりだな。カズキの曲も良いけれど、俺はお前の曲も好きだ」
 まだ眠気を含んだ声は元々高めのそれをより上擦らせて、若干掠れたようにも聞こえる。ハスキーさを孕んだその声はいつもよりも幼い。この声は自分しか聴いていないのだ。自分だけが知っている彼の一部に触れて、少しだけ胸が暖かくなる。
「……そ、そういう台詞をさらっと言うもんじゃない!ま、まあいい。曲は聴かせてやるが、ただ聴くだけじゃないぞ。コーラスはお前の係りだからな。即興でだぞ!」
 正直に言っただけなのに、あからさまに動揺した声。せめてもの矜持を保とうと吐かれた「命令」も、上機嫌なヨウスケの前では霞んでしまう。当たり前みたいに「ああ」と相槌を打ってやると、布団の間から物言いたげな顔が覗いた。
「ほら、コーヒーを入れてやるから、そろそろ……起きろ――」
 
 自身の声でヨウスケは目覚めた。至極柔らかな声を聞いたような、気がした。こんなに優しい声を、出せたのだろうか。些細な疑問は、いつの間にか冬の季候にかき消される。今年の冬は厳しく、琉球にも寒空が訪れていた。特に一人で暮らすヨウスケの部屋は、空いた隙間に肌寒さばかりが押し寄せ、容赦なくヨウスケの身体を震わせるのだ。
 眠気眼を擦りながら、ヨウスケは見ていた夢の事を思い出す。とても優しい夢を見ていたような、気がする。よく思い出せない。親しく会話していた――布団の中にいた顔が、思い出せない。
 そもそも、琉球LAGを出てからずっと一人暮らしなのだ。不思議と尾を引く夢の内容に疑問を持ちながら、布団から抜け出した。そういえばカズキから渡された曲の練習をしなければ。机の上に置かれた譜面を手に取った頃にはもう、夢の内容など忘れていた。


***

タクトが消えてしまったその日に、タクトに関する記憶を失ってしまったヨウスケの話。
作品名:水性ワンルーム 作家名:nana