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扉を開ければ、そこは異世界

…と、本で読んだ事はあるが…
「これは…」


どこからか入り込んだのだろう
タクトの周りに───猫が
彼を囲むように、寄り添うように寝ていた

柔らかく風が吹き込み、ふわりとカーテンが舞う
季節だけではない、花の香りが優しく漂い、彼がいる一帯は光っているかのように見えた
(それでなくとも、あいつの側は暖かい)

その中にタクトは静かに寝息を立て、スガタが側にきた気配も気付かない
…いつもは側に近寄るだけで起きるのに。それほどまで、深く眠っているのだろうか
だが…見ていて非常に和む光景だ

起こさないよう近付くと、慎重に腰を落とす
一匹の猫が目を片方だけ開け、そんなスガタの様子を窺っていたが、再び眠りにつく
盗られると思ったのか、若干警戒していた猫にくすりと笑みを浮かべ、「こいつは僕のだからあげないよ」と呟き、タクトに視線を向けた

気持ち良さそうに眠る彼に先程とは違い、愛おしそうに微笑を零し、そっと髪を撫でる
ふわふわとした柔らかいそれは……まるで猫を触っているよう

「…昼食の時間になっても来ないと思ったら…ふふ、まるで猫だんごだな」
「…ぅん…スガ、タ…?」
笑った事により振動が伝わったのか。タクトは小さく瞼を震わせると次第に目を開き、ぼんやりと見つめてきた
眠気の残るその瞳は潤み、声も甘く響く
思わず掻き抱きたくなったが、実行してしまったらこの雰囲気も壊れてしまう。それは惜しい
首を振り、気を取り直すと髪を一撫ですると身を屈め、優しく囁く

「もうすぐお昼だよ、タクト」
「ん…」
「それとも、まだ寝るか?」
「う、んん…おきる…」
そう言いつつも身を起こす気配はなく、触れている手に擦り寄ってくるタクト
可愛らしい姿に頬を緩め、耳に熱を落とすと指を絡ませ、
「起きないの…?」
くすくすと楽しそうに笑い、瞼にも口付け

擽ったそうに身を揺らし、引き寄せられ応えようとすると…
にゃあ、と声がする
思い出したよう、下を見ると猫たちが不満そうにこちらを見ていた

尻尾で床を叩き、一匹が二人の間を割って入りスガタを一睨みし、そのままタクトへと擦り寄る
くすぐったいよ、と笑みを含んだ声で猫を触り、じゃれ合う様子に少し嫉妬
次々と猫が彼に近寄ってきては体を擦り付け、甘えた声を出す
それにタクトは仕方がないなあ、とばかりに撫でるから切りがない

楽しそうなタクトを止める訳にもいかず、むすっとした顔で眺めていると、
「…わ!…ふふ、くすぐったいってば」
頬を舐められる姿に、何かが切れる
勢いよく腕を掴むと身を起こさせ、目を丸くする彼を引き寄せた

口を開け、顎に手をかけ逃げられぬよう固定し、

「い…ッ!」


──その柔らかい頬に噛み付く

「ス、スガ、タ…!いた…ッ」
痛みに悶え、放そうと身を捩るタクトの頭に手を当て、より近付かせ今度は首筋を噛む
しかし、力を入れずに甘噛みのように噛み、ぺろりと舐め吸い付いた

背を仰け反らせ、震える彼にうっそりと目を細め、紅く色付くそれに満足気に微笑んだ
目に涙を溜め、息を整えようとするタクトに顔を近づけると、

がんッ

「~~ッ」
「ば、ばかスガタ…!」
完全に目を覚ましたタクトは頬を薔薇色に染めながらスガタを睨みつけ、思いっ切り頭突きをかましてきた
ちかちかと視界に星が飛び、額を押さえる
(…わ、割れてないよな…?いや、まあ自業自得だけど…)
あまりの痛さに、思わずスガタは心の中でそう呟く

「し、嫉妬するのはいいけど…ッ 見えるところに付けるなと…!」
(いや、そういう問題か…?)
ずれた言葉に体勢を整え、だが内容に瞬く
「…嫉妬したって分かったんだ」
「分からいでか!」
どれだけ一緒にいると思ってんだ!と、びしッと指を差す姿に、徐々に頬に熱が溜まる
口元を手で覆い、視線を泳がす様子に不思議に思ったのだろう
首を傾げ、「…そんなに痛かったか…?」と不安そうに覗き込んできた
額にそっと触れてきて、自分より低い体温に小さく息をつき、その手を取り微笑む

「大丈夫。ちょっと感動しただけ」
「感動って…」
呆れた表情に笑みを深めると、再び指を絡め、その上に熱を落とす
「ふふ」
「もう……さっきので猫たちがどこかにいったじゃんか」
ただ笑うだけの僕に彼はそれ以上何も聞かず、名残惜しそうに窓に目を向ける
また、むくりと嫉妬心が沸き起こるが、タクトの流石に次は怒るぞ、という視線に肩を竦め、引き寄せた
抵抗せずに腕に収まる彼を抱きしめ、髪にキス

「…ほんと、独占欲が強いね………まあ、嫌じゃないけど」
むしろ嬉しいし、と最後は小さく、小さく呟くタクトにスガタは微笑み、

「タクト…」
「ん…」

静かに、顔を寄せた





「…さ、昼食にしようか」
彼から香る花の匂いに自分にも移っているのだろうか、と目を細め、腰に手を当て促す
「ああ。……部屋の外に出たら手は放せよ」
と、じとりとした目で見つめてくるタクト
だが目元を染めながら睨む姿は、可愛いでしかないのに。分かってないな、と苦笑を浮かべ「はいはい」と頷く


「…あ、でも食べたら一緒に昼寝しよう」
その言葉にぴしりッと固まる


───本当、どうしようか。この猫は





(もちろん、あの後美味しく頂きました)
(誰に向かって言ってんだッ この、ばか!)
(ははは)
(避けんな!って、おい、何この手は…!?)
(あっはっは)
(ッッ!ぎゃー!)
作品名: 作家名:夜。