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音が連なる

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持ち物が、増えた。
部屋に入った瞬間そう感じた。留守の間に、という意味ではなく、ふと気付いた。




学生時代や動乱の最中ではポーションやら万能薬やらの医療品が最優先で、次が武器のカスタマイズ。そうなるとなかなか残る物を買う余裕はなくなる。
今も優先順位が変わったわけではないが、消費量と稼ぎが変わって大きな収入過多状態だ。ないよりはいいかもしれないが、所得税云々が面倒だ。


リノアの買い物に付き合う度に何故か俺の物も増えている。
―この前は何を買ったんだったか……
ぐるりと見回せば視界に少し馴染みのないものが浮かぶように目に入る。
―コーヒーサイフォンとコンポと……兵法関連の書籍、か。仕舞っているから見えはしないが、アクセサリー類も増やしたはずだ。
そういえばコンポを買ったはいいが、CDが一枚しかない。ラグナに押し付けられたEyes on me……いい曲だとは思うがこればかり聴くのも妙な感じだ。
なんとなくラジオを聞いてみたりしていたのだが電波が入りづらい部屋なのか砂嵐の音の向こうに人の声がする状態で早々に聞く気をなくした。
―というか、これ要るものだったのか?
疑問符が浮かんだところで、これの購入を勧めたのはリノアだったと思い出す。どうせならついでにいくつか曲を勧めてくれればよかったのに、と思うも今更だ。
今度暇があれば彼女に訊いてみようと結論付けて、放っていた荷解きに取り掛かった。


「オススメ?曲の?」
「ああ」
「うーん、どんなのが好き、とかないの?」
ロックとかクラシックとかポップスとか、と言われたもののいまいちピンとこない。ジャンルどころかまともに音楽を聞いた覚えがないのだから仕方ないだろう。
「……」
「わたしはけっこうクラシック好きだけど、スコールはそうでもなさそうだよね……そうだなぁ、とりあえず有名どころ聞いてみたら?」
「有名どころって……」
それがわかれば苦労しない。
「みんなに聞いてみるとか。音楽の趣味って本当に人それぞれだからショップで試聴とかもいいかもね」
クラシックは興味ない人には眠く聞こえるみたいだから、逆にオススメかも、なんてからかわれもしたが、とりあえずはアドバイス通りにショップに行ってみることにした。
―うわ、すごい数だな……
一番出前にあったのは芸能ニュースなんかで見かけるアイドルグループのディスクで、ジャケットで断念した。外見で判断して申し訳ないが、俺があれは、マズいと思う。
ポップスのコーナーはかなり多くて、ポップが書かれたものを見ながら、たまに聞いてみる。
―なんか本屋みたいだよな……ディスクショップって。
買うものを予め決めておかない買い物はあまり得意ではなく、数十分うろうろするだけの状態でいたたまれなくなってきた。そんなことを思ったところで後ろから声がかかった。
「あれ?スコール?珍しいね、君がこんなところにいるなんて」
振り向けばアーヴァインが片手を挙げる。
「初めて来たんだ。しかしなんというか、すごいな」
「まぁいろんな音楽があるしね。デリングのショップはここの倍くらいあるよ」
訳が分からない、と思ったのが顔に出たのか迷子になるなよ、と言ってきた。
「アーヴァインは何を聴くんだ?」
「僕はけっこう何でも。今日は好きな歌手がカバーアルバムだしたから買いに来たんだ。そっちは……とりあえず来てみましたって感じだね」
「That's right.見ての通り途方に暮れてるところだ」
「うーん、好みのものが見つからないなら買うのももったいないし、人から借りてみるってのもいいんじゃない?さしあたり僕ので良ければいくつか貸そうか?って、ディスクショップでこんな話するのも大概営業妨害だろうけど」
苦笑するアーヴァインに似たような笑みで以って返して、とりあえずショップを後にすることにした。彼はまだ用事があるようだったので自分だけ帰路につく。なれないことをして疲れた、ような気もした。
―ていうかそもそも俺、音楽聴きたいのか?買ったコンポがもったいないから、という理由で探しているような気もするが、まぁいいか。

次の日の課業前にアーヴァインから数枚のディスクを借りて、その日の課業後にかけてみた。
どのディスクにも十曲ほどずつ入っているからアルバムかと思ったら、アーヴァインがいろいろとタイプの違うものを集めて入れてくれたらしい。一曲ごとに変わる歌い手をディスクケースに書かれたメモで確認しながら聴いていく。
―あ、これいいな。
二枚目の三番目。バンドのようだった。読めはするもののスペルミスのような字の並び。
そのあとも最後まで流してみたけれど、一番惹かれたのはそのバンドだった。
次に会ったときにディスクを返しつつ、スペルについて訊いてみる。
「ああ、あれかい?僕の間違いじゃないよ~っていうかアレ、わざとなんだって。複数意味がかかってるみたいだよ」
それはスコールにあげるよ、と返そうとしていたディスクもまた受け取って、結局自室のラックに仕舞った。
後日ショップに足を運んで件のバンドを探してみる。ロックのコーナーを見て歩けば、何枚もアルバムが置いてあった。結構有名というか、長くやっているドールのバンドらしい。一番最近のものを手にとって、レジに並んだ。
部屋に戻って聴いてみれば、やはり耳馴染みがいいというかなんというか。高音の伸びがよくて、聞き苦しくない。ショップでアーヴァインに遭ったのはラッキーだったなと思う。自分では見つけられなかっただろう。
しばらくはこのバンドを聴きながら、他にも探してみるのもいいか、と、とりあえず問題が解決したことをリノアに報告する。
「あ、これ確かこの前デリングでコンサートやってたよ。残念だったね」
「まぁわかっててもいけなかったと思うけど」
「それもそっか。ふーん。そっかそっか」
したり顔で頷くリノアに怪訝な目を向ければ、気付いた彼女は笑う。
「意外なようで意外じゃないというか。うん。似合ってる」
「似合ってるってなんだよ」
「……なんだろうね?」
意味がわからない彼女はいつものことだが。
今回の一連の出来事は彼女の示唆によるところが大きいわけで。そして俺は自室での楽しみが増えた。
「リノア」
「ん?」
「ありがとうな」
「なにが?」
「買い物に振りまわしてくれて」
「……それ本当に感謝してるのかなぁ」
「さぁ、どうだろうな」
ぶすくれるリノアには適当に返しておく。だってきっと照れ隠しはバレているから。
こういう風に、持ち物は増えていくようだ。



作品名:音が連なる 作家名:鴇ゆうや