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笑顔になれる幸せのレシピ

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【笑顔になれる幸せのレシピ】

ここで待っていて頂戴、とローザに無理矢理食堂の椅子に座らされてかれこれ1時間はたっている。暇潰しに燭台の蝋燭がゆっくり溶けていく時間をはかったり花瓶に活けてある花で勝手に花占いなどをしていたが、(勿論謝った。因みに結果は秘密だ)さすがに遅すぎる。しかしいつまで待たせるんだと席をたって厨房へ向かったのはマズかった。階下から聞こえてきた音は食材を切る音。何かを煮込む音。美味しそうな匂い。女中達の、王妃様そんな事はわたくし共めが!という叫び。あらそんなに心配しなくても大丈夫よ。どかーん。きゃぁぁあ王妃様ー!なんだ今の爆発は!暴動か!?皆の者であえ、であえーい!ばたーん。何やってるんだローザぁぁぁああ!がしゃーん。いやぁぁあカイン様がシャンパンタワーにぃぃぃ!こんな具合である。これは見に行くしかないと、残りの階段を一目散にかけ降りて厨房を覗こうとしたセシルだが、「お願いですから、お席にお戻りになってくださいませ、お願いですから!」と給仕に涙目で止められてしまっては仕方がない。大人しく席に戻ることとする。

「あ、カイン」

着席後、少したってからそれはそれは物凄く不機嫌な顔のカインが入ってきた。見張りの兵士が招かれざる客人におろおろしているのを後目に、カインは堂々と着席する。芳しいシャンパンのアロマがセシルのところまで漂ってきた。「凄い目にあったみたいだね」返ってきた返事は「全くだ」と一点張りで、おまけに頭をふる度にシャンパンの滴が飛んでくるのだからやはりシャンパンタワーに突っ込んだのは事実らしい。セシルは取りあえず通りかかった兵士にタオルを持ってこさせるように頼み、新米らしいその兵士は直ぐに身体を不自然なまでにきびきびと動かしながらも持ってきてくれた。礼を言った後、取りあえず兵士らを下がらせてタオルをカインに放って寄越す。「そんな渡し方があるか」と言いながらも、いそいそとご自慢のブロンドの髪を拭く姿は微笑ましい。

「そういえば、何故ここに?」
「ローザに、カインも一緒にどう?と誘われたんでな」なるほど、ならば久しぶりに皆で食事がとれるって事か。どこか嬉しそうにセシルは呟いた。こんなのはいつぶりだろうとカインも思考を過去に戻す。目をつぶれば、今でも皆の談笑が思い返せる。あぁこの時間が幸せなんだと笑顔で言った彼は、ほんの少しの時を感じさせながらも、今もカインの目の前で笑っている。

「また皆に会いたいな。今度晩餐会でも開いてみようか」
「俺は別に構わんぞ。ま、エッジあたりなら喜んで来るんじゃないか?」

そうだね、じゃあ、リディアも呼んであげなくちゃ。そこまで言った後、ようやく扉が開いてローザが姿を表した。とても惨劇のあととは思えない(本人はそうとはつゆとも思ってなさそうだが)優雅な足取りで台車を押し、次々と皿をテーブルに並べていく。

「久しぶりだったから手間取っちゃって」何が手間取っちゃってだと言わんばかりに眉を潜めるカインを完全に無視し、ローザはセシルに微笑みかける。「でも懐かしかったわ。料理なんてあの時以来だったから」

「うん、最近はコックが作ってくれたものばっかりだったから、ローザの手料理は久しぶりだ」
「比べないでね」
「比べないさ。でも、どうしていきなり?」

セシルのその言葉には流石に、茅の外にほっぽりだされていたカインも目を見開いた。「どうして、って」ローザもぽかんとしている。

「今日は、貴方の誕生日じゃない」


孤児として拾われたセシルは、誕生日を祝うことが無かった。そこで幼馴染みの二人が――殆どローザの提案だったが――セシルが拾われた日を誕生日として決めたのだ。その日は、どんなに忙しくても三人で必ず集まり、細やかなパーティを開いていた。内気で悩み事をすぐ抱え込んでしまうセシルに、せめてこの日だけは何もかも忘れて、幸せな一日が過ごせるように。


「誕生日おめでとう、セシル。貴方に会えて良かったわ」ローザが、ワインの注がれたグラスをそっと持ち上げた。カインもそれに習う。意外と恥ずかしがり屋の彼は、ただおめでとう、と言うだけだったけれど。

「ぼく、今すごく幸せだよ」

豪勢ではないが暖かい食事と眼差しに、セシルは胸に込み上げるものを感じた。目頭が熱い。神様、この二人に出会えたことに感謝します。瞼の裏に溜まった嬉し涙を悟られないように、セシルは精一杯の感謝の気持ちを込めてありがとう、と微笑んだ。



091110