ちーちゃんと猫
ちーちゃんは猫を見つけました。公園のあずまやの隅で、ちっちゃい箱に入れられていたのでした。ちっちゃい猫でした。猫はやせていて、毛が寝ていて、灰色みたいな茶色みたいな色でした。うちのおそばとおんなじ色でした。
猫は猫目です。つりあがって糸のような目です。ちーちゃんの目も、つりあがっていて猫みたいだと言われます。おんなじです。
ちーちゃんは公園のあずまやで猫を見つけました。ちっちゃい猫です。撫でるとナーゴと鳴きます。
よい猫です。
ちーちゃんは猫をひろって服の前のところに入れました。ジャージを胸のところまで開けてやって、すっぽり包んで、胸から猫の顔が突き出るみたいな格好にしたのでした。ど根性ガエル、そうそう、あんな感じだったのでした。ちーちゃんど根性ガエル観たことないのでした。若いから。
ちーちゃんは猫をひろって、ど根性猫、いっしょに連れて行こうと思いました。
そしたら千葉さんに会ったのでした。
千葉さんは目をまんまるにしました。そんで怒りました。
その猫どうしたの、拾ったの、連れていってどうするの、更科さんのおうち食べ物屋さんでしょう、大丈夫なの、え、飼えないって?飼っちゃいけないの、それならどうして、信じられない、無責任だわ無責任だと思わないの。
ちーちゃんときどき千葉さんに怒られるんですけど、そうするとなんか、うわああちーちゃん超心配されてるじゃんという気がして、なんか嬉しくなってしまうのでした。体がくすぐったくなって、ぐふふ、と笑うのです、そうすると、千葉さんよけいに怒るのでした。おっかないのでした。
猫はあずまやの箱に戻しました。家からいらないバスタオルを持ってきてかぶせました。おそばは食べないと思うので小魚を持ってきました。
猫が小魚をぽりぽりいわして食べています。おいしいかい。声をかけるとまたナーゴと鳴きます。
そのまま猫と遊んでいたら、千葉さんがやってきました。手提げ袋を持っていました。
袋の中身は銀のお皿とミルクでした。
「猫にえさをあげるなんて、わたし、あんまりすきじゃない」
千葉さんはそう言いながら、ミルクの入った銀のお皿をさしだして、猫はおいしそうにミルクを飲みます。
「全部の猫にえさをあげられるわけじゃないでしょう」
ちーちゃんはたいく座りして眺めていたのでした。猫はあっというまにミルクを飲みほしてしまいました。銀のお皿に前脚をふみこんで、千葉さんの手をぺろぺろとなめはじめました。
「よかったねえ、ちーちゃん」
千葉さんが、ぴくっと眉を動かします。
「この子のこと?」
「そう、ちーちゃん」
「なにそれ」
「ちーちゃんにそっくりだからちーちゃん」
「混乱するじゃない」
「ちーちゃん混乱しないよ、ちーちゃんちーちゃんのことはちーちゃんだってわかるから、そっちのちーちゃんもちーちゃんって気に入ったみたいだし、ねえちーちゃん」
「もういい」
ため息と、ナーゴと、同時にきこえてきたのでした。
千葉さんが座りなおしてちーちゃんの頭を撫でました。猫のちーちゃんの方です。
猫のちーちゃんはまんぷくそうです。しあわせそうです。中学生のちーちゃんもけっこういい気分でした。
ちーちゃんは猫を見つけました、猫もちーちゃんで、猫の頭を千葉さんが撫でていて、しあわせです。こんなにしあわせなので今夜のちーちゃんは猫の夢をみるでしょう。ちーちゃんは猫のちーちゃんになって、銀のお皿からミルクをもらって、飲みほして、それはきっとおいしいミルクです。夢の中でちーちゃんはきっと、おひるごはんに千葉さんの残してしまった牛乳も飲んであげるのでした、たくさん飲んで、笑うのでした、千葉さんも少し笑います。
ちーちゃんは猫で、中学生で、教室で、元気です。
笑います、笑っているのが、ちーちゃんなのでした。