いいかげんにしろ
本当はもっと、この人をえぐるような、酷い言葉を投げつけてやりたかった。けれど僕の口から零れたものはあまりにも子供っぽくて、それが自分でもわかってしまって、一瞬にして羞恥心に染まる。こういう時、臨也さんのよく回る口が欲しい。
臨也さんは僕を見て、ぎょっと驚いた顔をする。それは僕の目からぼろぼろ落ちている、この涙に対してなのだろう。ああ、もう、本当に嫌になる。
「何で泣いてんの」
「そういう風に聞いてくる臨也さんなんて、大嫌いです」
「ただ普通に聞いただけじゃないか…」
それが問題だと、言っているのに。
見て見ぬフリをしてくれたらいいのに。いつものように、いつもみたいに、僕をないがしろにして振り回して、笑って突き落としてくれれば、僕は傷つくだけで済むのに。
こんな涙の一粒や二粒、どうってことないと笑えるはずなのに。
「…悪かったよ」
謝罪は薄っぺらくて、これでもかというくらいぶっきらぼうだった。
僕は口を結んで、首を横に振った。いやだいやだ、そう臨也さんに突き付ける。
そんな僕を見て、臨也さんは面倒くさそうに舌打ちをした。悪かったですね。僕はこれっぽっちも可愛くないので、こんな態度しか取れないんですよ。
「ホントに悪かったってば。いい加減許してよ」
「そんな言葉で本当に許されると思ってるんですか」
「思ってる」
「死ねばいい」
半分本心で、半分タチの悪い冗談。
臨也さんの顔が引きつったのを確認して、僕はさらに吐き捨てる。
「臨也さんなんて、波江さんにすら見捨てられて、ひとりぼっちで死んだらいいんですよ。ざまあみろ」
「頼むから俺の味方が波江しかいないみたいな言い方はよしてくれない?」
「間違ってないでしょ」
「そう言い切る帝人くんが今すっごく腹立つ」
「僕だって怒ってるんです」
そう言った僕の目から、また一粒落ちる。
臨也さんはこれでもかというくらい、それはそれは大きなため息をついた。長いそれを吐き終えると、彼は僕の手を取って自分の頬にあてる。
「ごめん」
僕の手が、臨也さんの輪郭をなぞっている。
彼に、触れている。
「ここまで怒るなんて思ってなかった。ごめん。もうしないから、許して」
「その言葉、聞き飽きてます」
「だろうね」
「臨也さんを信じるの、正直とても疲れたんです」
「うん」
「すごく、怒ってます」
「うん」
「…ホント、大嫌いです。貴方なんて、」
消えてしまえばいい、なんて。それはやはり戯言なんだろう。彼が消えてしまったら、きっと僕は今以上に泣いて泣いて泣いて、いない彼を探してしまうのだから。
惚れた弱み、そんな言葉作らなきゃよかったのに。そうしたら、僕はこの感情を二重線をひいて消せたはずだ。
「悔しい、ホントに、貴方なんて、」
「あーやめやめ。めんどくさい。このままだと延々キリないし。――もう黙れよ」
だから、アンタのそういうところが腹が立つって言ってるんだ!
けれど僕の口は彼にふさがれてしまっているし、僕の腕は抵抗するどころか彼に縋り付いてしまっているので、僕ができることと言えば、目を閉じて最後の涙を流すだけだ。それにうんざりしながらも、彼が与える熱は確実に僕を浸食していくのだった。