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ふざけんなぁ!! 5

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「こっちの一枚は、幽ん事で使わせてもらうからさ、後はお前が好きにしろ」
「え? ならやっぱり一枚ずつ……」
「嫌、俺の一番の願いはもう叶ったからさ、もういいんだ」

帝人がどうしても欲しかった。
言葉と約束で、彼女の未来全部がやっと貰えたのだ。
もしこれ以上欲をかいていいんなら……、帝人と婚前交渉を直ぐにでもさせろとか、書いちまいそうで怖い。
本当に人間の欲望っていうのはマジで際限無い。
己自身で初夜まで抱かないと決めた癖に、一つ夢が叶えば、直ぐにもっともっとと欲しくなる。

「じゃあ、遠慮なく書かせていただきますね♪」

静雄の心の中のどす黒さも知らず、帝人は可愛い丸っこい字で、楽しげに願い事を書き始めた。
日頃一切我儘を言わない、彼女の願い事が気になり、首を伸ばして眺めてみた。

一枚目は、【好きな人とずっと一緒にいられますように】……か。よしよし♪
二枚目は、【弟さんが早く元気になりますように】……と。

「………おい、こら、幽は俺が書くっつったろ?……」
「……あ……、えへへ……。つい、これ以外で静雄さんが、何お願いするかな……って、気になって」
「あーほら、仕方ねぇからこれも書け。何か願え」
「……ううう、人の話聞いてないし……。うーん、じゃあ、静雄さんがずっと元気でいられますように…?」

静雄はぽしっと帝人の頭に手を置き、ぐりぐりと掻き撫でた。

「俺のじゃなくて、お前の願い事何かねーのかよ。ほら、テストでいい点取れますようにとか、欲しいもんとか、……おう、そうだ欲しいもん書け。何か一つぐらいあんだろ?」


そう話を振ったのは、ふと気がついたからだ。
彼女は静雄の知る限り、物欲が全く無かった。
一緒に暮らし始めて、もう三ヶ月を超えたというのに、彼女の周りには相変わらず学校関係以外の私物が殆ど無いのだ。
PS3とかNDSとか、セルティや紀田が夢中になっているゲームの類も、CDも、漫画や電撃文庫も、DVDも一つも無い。
化粧品だって薬用リップ一本だし、私服なんて下着込みで小さな紙袋に全部入るぐらいで、年頃の女の子が好むような、ぬいぐるみとて全く無いのだ。

いくら慎ましく倹約しなけりゃならない貧乏学生でも、ここまで潤いがないと哀れすぎる。
彼女の私物全部を木っ端微塵にした負い目もあるし、もし欲しいものが判れば、何か理由をつけてプレゼントしてやりたい。
兎に角、帝人の喜ぶ顔が見たいのだ。

そんな下心を持って、短冊をじぃっと見ていると、彼女は暫く考えて、ようやく筆ペンを走らせた。
だが、細い紙に小さく綴られた文字は、ミミズがのた打ち回ったような跡にしか見えず、かろうじて最後の『が、当たりますように』しか判別がつかない。

ぴきぴきっと、静雄の額に青筋が浮かんだ。

「…………おい、それ何語だ?………」
「ああ、アップル社のパソコンの名前です♪ 日本では販売されてない奴なんですが、スペックが超私好みなんです。………筆で英語は、やっぱ書きにくいですね」


静雄の野望はまたもや潰えた。



作品名:ふざけんなぁ!! 5 作家名:みかる