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【腐向DR】0123クロスロード新刊サンプル【幽静】

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「誰よりも真っ先におめでとうって言いたかったんだ」
 室内に入り、コートを脱いで落ち着いたところで幽はそう言った。
「電話とかじゃなくて、きちんと直接。毎年のことだけどちゃんと兄さんに会いたくて」
 キッチンでインスタントコーヒーを用意しつつ、妙に饒舌な幽を珍しいと思いながら静雄はその言葉を聞いていた。決して幽は無口なわけではないが、こうしてまくし立てるような話し方をすることは滅多にない。
「だから、こうして今日一番に兄さんに会えて一番におめでとうって言えたことが嬉しい」
 そう言って静雄を見つめる幽の目はひどく真剣だ。ただの誕生日と言うには随分と重さを感じさせるそれに、幽が何かを考えているのだろうと感じて静雄は出来上がったコーヒーを手に静雄は幽の元へと戻る。
「ありがとう」
 差し出されたコーヒーを受け取って幽は礼を言うと、一口それを飲んだ。それで少し落ち着きを取り戻したのか、幽はほっと息をついてまた静雄を見つめる。
 幽が静雄を見るのはいつものことだが、それにしても頻度が多い、と静雄は感じる。やはり何かがあるのだろうと考え、無理に急くことはせずに静雄は幽が自分から伝えようとするのを待つことにした。
「そんなに急がなくたって、誰も来やしねえよ」
「そうかな」
 笑って言った静雄に幽は少しだけ首を傾げる。
「兄さんは、自分が好かれてるってこともう少し自覚した方がいいよ」
 唐突な幽の言葉に静雄は面食らったように言葉を飲み込んだ。幼い頃から自分の力を嫌い、また他人に恐れられてきた自分に言う言葉ではないと静雄は思うが、幽の表情は先程と変わらずやはり真剣なままだ。
「小さな頃は、確かに怖がられてばっかりだったけど。今の兄さんは違う。ちゃんと、みんなと付き合っていい関係を築いて、笑いあって暮らしてる」
「幽」
「今の兄さんはもう小さい頃とは違うんだ。ちゃんと好きだと言ってくれる人もいるし、密かに兄さんのことを好きになっている人がいることも僕は知ってる」
「幽」
 話している内に興奮してきたのか、どんどんと早口になっていく幽を窘めるように静雄はその名を呼ぶ。幽は一度大きく息を吸い、それを吐き出してらしくもない自分をどうしようもできないとでも言うかのように緩くかぶりを振った。
「だから、不安なんだ」
 手にしていたマグカップをテーブルの上に置き、静雄に向き直って幽は言った。思ってもみない言葉に静雄は驚き、つられるようにして自分もコーヒーをテーブルに置いて幽に向き直る。
「不安って」
「今の兄さんには好意を持ってくれてる人がたくさんいる。だから、そのうち兄さんもその人達に気づいて自分からも好意を持ってしまうんじゃないかって」
「幽」
「……だから、受け取って欲しいんだ」
 絞り出すような声で言われ、静雄は息を飲んだ。幽はコートのポケットから小さな箱を取り出して静雄の方へと差し出す。
「誕生日、おめでとう兄さん。ずっと、僕だけのものでいて欲しい」
 静雄が受け取ったそれをどうしようか迷っていると、幽は自分から手を伸ばしてその包装を解く。外装を外し、中から出てきた箱を開ければその中にあったのは静雄の想像通り、一つのシンプルな指輪がおさまっていた。
「ペア、なんだ」
 そう言うと幽は己の首元に手を持って行き、付けていたチェーンを引き出してその先にあるものを指し示す。
 静雄に渡したものと、同じ形をしたリングがその先にさがっていて、静雄は幽がどう言った思いでそれを持ってきたのか言われずとも理解した。
「バカだな、幽」
 そう言うと静雄は幽に手を伸ばし、腕を掴んでゆるく引いた。身を乗り出していた幽はそれに抗わずに引き寄せられ、静雄の目の前まで移動する。
「俺は、そんな風に必死になんねえでもずっとお前のもんだ。分かってるか、兄弟なんだぞ? 生半可な気持ちでこんな関係になれる訳がねえだろう」
 そう言って笑うと幽は食い入るように静雄の顔を見つめている。息をするのも忘れてしまったかのような幽に静雄は苦笑すると、顔を傾けて触れるだけの口付けを幽に与えた。
「ほら、つけろよ。そのために持って来たんだろ」
 口付けをされながらも瞬きを繰り返す幽に、静雄は笑って己の左手をその目の前にひらつかせる。そこで始めて意識を取り戻したかのようにはっきりと視線を向けた幽は、息をついてコートのポケットから先程と同じようにもう一つ箱を取り出してきた。
「指にはめてたら、兄さんのことだからきっと壊すと思って」
 そう言って箱の中から取りだしたチェーンを指輪に通し、幽は自分と同じように首から提げろと静雄の方へ差し出す。
「まあ、なあ……キレちまえば俺も自分で何しでかすかわかんねえし」
 言いながらも静雄は差し出されたそれを受け取らず、そのまま顎を上げて己の喉を幽へとさらけ出した。その仕草に静雄の意図を悟って幽は身を乗り出すと、静雄の首へとそのチェーンを回し、金具をはめる。
「壊しちゃ、駄目だよ」
「壊さねえよ」
 首筋に触れた指先が僅かに震えていたのに気づいたが、敢えてそれには言及することなく静雄はそうとだけ答えた。
 チェーンをはめ終えた幽が、そのままそこへと顔を沈めて確かめるように鎖ごと、静雄の首筋へと口付ける。
 胸の上辺りに触れているリングがひやりとした感覚を静雄に返してきた。首筋に触れている唇の熱さと相まって、肌がぞくりと粟立つのを静雄は感じた。
「幽」
 もう何度目かも分からぬほど呼んだその名が、自分でひどく掠れているように感じて静雄は深く息をついた。自分で思っているよりもずっと、幽の行動に感情を揺さぶられているらしい。
「僕の、ものだ」
 そのまま頭をずらし、静雄の首筋に額を押しつけるようにしながら幽はそう言った。その視線の先には己が渡したリングが静かに光っている。
「だーから。お前のものだって言ってんだろ」
 そう言って静雄は片手で幽の頭をかき回した。昔から変わらぬ手つきのそれに、幽は小さく笑みを漏らしてうん、と頷く。
「すごく、緊張してたんだと思う」
 静雄の胸元に手を触れさせ、羽織っていたシャツのボタンを一つ一つ外していきながら幽は言った。
「仕事の時でも、こんな風に感じた事なかった。どうしたらいいのか分からなくて、頭が全然回らなくて、でも言いたいことはいっぱいあって」
「そのままぶつけてくりゃいいだろう。俺を誰だと思ってんだ?」
 静雄も同じように手を伸ばし、幽の服をはだけていきながらそう笑った。はだけられた襟元から覗く、自分に渡されたものと同じリングが妙に存在を主張しているように感じる。
「つーか、なんて言ってこれ買ったんだ」
 ふと疑問を感じ、幽のシャツを脱がせながら静雄は問いかけた。指先で幽のリングを弾き、胸元で揺らせる。
「何も……同じ形のリングが二つ欲しいって言って」
 問いに答えながらも幽は頭を沈め、静雄のリングに触れるだけの口付けを落とすとそのまま静雄の肌へと唇を押し当てる。
「……いいのか、それ」