かたみわかちた
ミズノは綺麗で楽しくて幸せなことしか知らないから。
そんなあの子が可愛くてしょうがなかった。まるで赤ちゃんのように無垢なあの子を、私は大切にしてきた。あの子はいつまでもそうした存在であるべきだ。私はそれを守るために努力を惜しまない。そんな異様ともいえるほどあの子に固執してきた自分の存在に、願いに、何の疑問も持たずに生きてきた。今となっては、自分が姉として生まれ出た意義について考える日々だ。
きっと私という存在はあの子へ無償の愛を与え続けるためだけの存在だ。本望だった。幻でも嘘でも構わない。
「アイスクリーム食べる?」
「食べるー!」
「今日は 何味?」
「マリノと同じ」
「私は何を選んだと思う?」
「いちご!」
「本当に、ミズノには何でも分かっちゃうんだね」
私にもね、分かることがあるんだよ。怒りや悲しみや苦しみ。私のほうがあなたより、この世界の多くを知っている。天才スポーツ少女と謳われて、散々もてはやされてきたけどね。本当は私のほうがあなたより、たくさん泣いてきたんだよ。
それでも、私は楽しいだけの内緒話をしていたい。あなたの世界を少しでも共有したい。まるで自分の心まで澄んでいくかのようなあなたの言葉を聞きながら。お風呂のお湯みたいに温かいあなたの中で揺蕩いながら。私はあなたの片身としての役割を全うするよ。
「ねえ、ミズノ。今日はどんな話を聞かせてくれるの?」
可愛いね。優しいね。いい子だね。そのままの、私の妹でいてね。