死する魂
吉継の病の描写有。
しゅるり、と包帯がほどける音がする。
その下から現れた手のひらは、あたりが薄暗いおかげであまりよくは見えないが、きっとすでに普通の手ではないに違いない。
自室で一人、自嘲めいた笑みを浮かべた吉継は、傍らの軟膏を一掬い掬うとその皮膚に擦り込んだ。
こんなものをいくら塗りこもうと、最早何にもならないことを重々承知の上である。
しかし、それを持ち込んだ時の三成の詮無い言葉が気にかかって、吉継はおとなしく毎夜のようにそれを使っていた。
(ああ、あれも本当に哀れな男よ)
心中ではそう思うが、どうにもそう思いきれない。
(どうしてぬしの慕う人間は、皆病持ちか短命なのであろうな)
吉継は自分の命がもう長くないことを知っている。
内からも外からも病に食い荒らされたこの身は、おそらくその時を迎えればあっけなく崩れてしまうだろう。
(三成よ、三成。われは…)
そこまで考えた瞬間、軟膏を渡しに来た時の先ほどの三成の様子が不意に思い出された。
「刑部、これを使え」
戦帰りの時である。
吉継の乗る神輿に近づいてきた三成は、そう言って吉継の手に小さな薬壺を握らせた。
「これが良く効くと聞いた。今日行った戦場の辺りで採れる薬草からしか作れんものらしい」
それだけ言うと、何も言えないままの吉継を尻目に去っていく三成。
その後ろ姿を見送って、何故か胸が痛んだのを思い出して吉継はぎゅっと目をつぶる。
瞼に何も持たないあの男の姿が浮かんで消えた。
2011年1月22日