迷彩シンパシー
久遠冬花は綺麗な字を書く奴だった。
何かの時ふいにそれを言うと、久遠は少し恥ずかしそうにありがとう、と言った。(笑った顔は人形みたいだった)会話が途切れる。俺は居心地の悪さに下を向く。どうして俺は、久遠とふたり、そんなおかしな状況になったのか。
「不動君も、綺麗だよね」
「は?」
切り出された発言の意味が分からなくて顔を上げた。真っ直ぐこちらを見詰める、どこか頼りなさげな久遠の瞳とかちあう。叩けば割れてしまうような、そんな気がする。
なにが、と言えば、即答で字、と短く返された。
「俺の字なんて、見れたもんじゃねえよ」
「嘘。とっても綺麗な字を書くのに、」
「ていうか、どこで見たんだよ、俺の字なんて」
「お父さんが持ってた、書類」
何も言えなくなる。久遠にかける言葉も、何も、上手いものなんてもとより無理だが、思い付かなかった。
「不動君は、あの字みたいな人なんでしょう」
まごついていると久遠はそれだけ言った。否定しようと思ったが、そのための言葉は出てこなかった。
「お前って、変な奴」
「そうかな」
今度手紙を書いてみるか、とぼんやり思う。きっとためになることも、意味のあることも書けないが、宛先は目の前の奇妙な同類へ。
久遠冬花はどんなことを、何を綴るのだろう。
駄目だ、らしくない。
そうは思ったが、この思い付きを投げる気には、とりあえずならなかった。