愛してるよ
……あぁ、ドタチンは今日は西池袋じゃないかな。何か用事でもあるの?
……へぇ、シズちゃんの誕生日に寄せ書きねぇ…。ハハッ、君達は本当に面白いこと考えるね!え……何、俺も?…ははっ!本当に面白いなぁ!
まさかそう来るとは思わなかったよ。…まぁ、俺からもらっても喜ばないとは思うけど。
他ならない君からの頼みだ、もちろん協力するよ。
そうだな…、じゃあこう書いておいてくれる?
『誕生日おめでとう、シズちゃん。早く死んで』
よぉ、セルティ。なんか久しぶりだな。
…あぁ、届けもの?俺にか?…何だ、これ…花と、色紙?
……誕、生日?ああ…、俺の、か。
…忘れてたな、そんなもん。
…あー…いや。
…まぁ、その、なんだ。
…あんがとな。
なんだか、面と向かっていうのもなんだがよ、まあ、嬉しいよな。こういうのって。…今度礼でもすっかな。
…ああ、今日はもう上がったから帰るぜ。
セルティもありがとうな。また、誘ってくれよ。
…ああ、そうだ。
この色紙よぉ、折角くれたのに悪ぃんだけど、左下のとこだけ破ってもいいか?
花束とメッセージが書かれた色紙を手に自室へ戻ると、良い匂いがした。
静雄の好きなシチューの匂いだ。
廊下を歩いていた時にはどの部屋か分からなかったが、部屋を開けたと途端に匂いが一気に広がって空腹を刺激する。
おかえりーと、声がした。
お世辞にも広いとは言えない1ルームに申し訳なさそうに付けられた台所には、使い慣れた様子で包丁を扱う臨也の後ろ姿があった。
適当に靴を脱ぎ散らかし、手にしたプレゼントを置くのもそぞろにその姿を目で追う。シンクの前で器用に野菜を更に盛り立てる手を抑えて後ろから抱き竦めた。
「腹減った」
「あー…悪いけど、もうちょっと掛かるよ」
「…で、何で今日は当たり前のようにここに居るのかなぁ?臨也君は」
肩に乗せられた顎に擽ったいと文句を言いながら臨也は首を竦め、手を重ねてスルリと身を翻す。
「シズちゃん、誕生日なんだろう?お祝いしてあげようと思って。俺からのメッセージ読んでくれた?」
メッセージと聞いて顔を顰め、腰に回した手に少し力が入った。
静雄の反応に得意げな表情で肩口に手を回す。その様子だと読んだみたいだね。と意地悪く口角を上げた。
静雄は更に腰を引き寄せ額を付き合わせる。
「ああ、読んださぁ。…折角の臨也君からのメッセージだからなぁ?…何のつもりだ、手前」
舌打ちしてグッと更に距離を縮めれば、臨也の鋭い眼光が妖しい光を放つ。
「お願いされちゃったからねぇ。無碍に断る訳にもいかないじゃない?」
「ふざけんな、俺はまだ死ぬつもりはねぇっつってんだろうが」
「ははっ、そういうと思ったよ」
唇が触れる程の距離で凄む静雄の前髪を掻き分ければ、静雄の今にも射殺すような眼差しにぶつかり臨也は身体を震わせる。
「…それに、シズちゃんが死ぬ時はちゃんと俺が殺してあげるよ」
その言葉に静雄はニヤリと笑みを浮かべた。―まるで悪巧みを思いついた大人か、それともプレゼントを前にした子供のような顔か。
「…そりゃ、楽しみだなぁ。まあ、その前に俺がお前を殺すけどな」
返された言葉に臨也が嬉しそうに目許を細めれば、静雄もつられたように口端を上げる。
そこから先は臨也が手を肩に回すのが先か、静雄が抱き寄せるが先だったか。
二人は少しの隙間も惜しむように抱き合って、噛み付くようなキスを交わした。