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とりどり

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そら、くも、くさ、とり。






とりどり







「よぉろしく」

灰色の部屋に放り込まれた先で、目に入った鮮やかな赤。

きれいだなーぁ、はいいろに、あか。

にこにこと笑って赤色に挨拶をすれば、聞こえなかったかのような無反応。
しばらく待ってみたものの、帰ってきたのはぺらりと雑誌をめくる音のみ。

ふぅむ、きっと今は、彼は世界の構成中。

自分には自分の世界が見えているように、彼には彼の世界が見えているのだろう、そういえば彼のまわりはおしゃれなものばかり。
ふむふむと一人頷きを繰り返し、ぼむっとほこりっぽいベッドの上に座る。

今日からここが、ぼくの家。

ぐるりと確認するように見回せば、ふと目に入った鮮やかな緑。
自分の着用している服と似通ったその色に目を奪われれば、げこ、と一つ大きな鳴き声。

「うわあうわぁかえる、だぁ」

おおきなそれに駆け寄れば、げこん、とまた鳴いておとなしく自分の手の中に納まった。
びろん、と少々重いそれを掲げれば、自分の目と同じくらいおおきな目ん玉が自分を映し出していた。

「おそろーい、ね、ほうら」

服を見てかえるを見て笑えば、了承の意を表したのかげこん、とまた違った声音で鳴いた。
彼はレニングラード。名前はそう決まっている。
うんうんと目を見て頷けば、再びレーニンはげこん、と大きく鳴いた。
おんなじ部屋に、緑が二つ。
自分の好きな色が増えたことに微笑みを漏らすと、レーニンは暖かい手で温もった体を冷やすためだろう、トイレの中へと飛び込んで消えた。
再び、緑が一つ。
ぐるりと部屋を見渡して、中にあるいろいろを確認していく。
壁の灰色、鞄の茶色、自分の緑に窓からの青。
ぽつりぽつりと飲み込むように確認していって、最後に隣の赤に目を止めた。
服も耳も赤い色。
耳についた大きな飾りはぴかぴかの銀色。
がっしりした体から察するに強いんだろうなぁ、とぼんやり飲み込む。
背景にあるいろとりどりのスニーカーと比較しても、彼の赤さは際立っている。
すべてしっくりくるまで飲み込んで、なお際立つ鮮やかさに目を奪われる。

なんて、きれいなあか。



「…め」



ぽつりと呟かれた言葉で、自分が赤い彼を凝視していたことに気付く。
目。

「あーぁ、ごめん、きれいだなーって思ってて」
あたふたと言葉を返せば、ちらりとこちらをみやる真っ黒な目。
異常に鋭い眼光をしているが、きっともともとなのだろう、別段に痛い感じはない。
「それ、」
と背後のスニーカーたちを指させば、得心がいったようにほんのわずか頷いた。
「いいね」
そう言った自分の顔を赤い彼は一瞬しっかりと両目で見据え、しかし一瞬後にはすでに両目はスニーカー雑誌へと移っていた。


ふぅーむ、うん。

灰色に茶色、青に緑にとりどりのくつたち、と、           とびっきりの、赤。



なかなかに楽しい生活になりそうだなぁ、などと一人ごち、ひとまずは彼を「スニーカー」と命名した。
その彼が極悪の死刑囚だと知るのは、翌朝の朝礼にて。





作品名:とりどり 作家名:ゆうや