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約束しましょう

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「もう、決めたのってミサカはミサカは決意のあふれる目をしながら言ってみる」
低い場所からまっすぐに見上げられる。声を聞くたびにいつも不思議だと思う。包み込むような、そんな声を出すから。子供の癖に。子供にはそんなもの、必要ないはずなのに。
「もう、二度と、あなたの声を取りこぼしたりしないの」
馬鹿じゃねェか?という言葉は、声になんてならなかった。

「むしろ君が馬鹿なんじゃないかって思うけどねぇ」
しみじみと嘆息するカエル顔の医者に、一方通行はギロリと剣呑な視線を向ける。一体何を知っているのかと投げたものをあっさり無視して、医者はカルテに書き込みをしながら「もういよ」と手を振った。穏やかな外見のわりに恐ろしいほど信念の固い男の横顔で、一方通行は望む答えの返らないことを知る。代わりのように、くだらないことを何となく聞いた。
「……聴診器、なんて古典的なモンも使うんだな」
医者は一瞬目を見開くと、子供を見るような顔で笑った。不本意だが、そんなものだろうと知っていた。
「古典的って、意外に侮れないものだよ?」

「ひどい、ひどいよって布団に包まりながらミサカはミサカは涙ながらに訴えてみたり」
「ドコも泣いてねぇじャねェか」
「心の涙なんですー」
ベェっと舌を出した少女の額を軽くはじく。「ほらひどい、ってあなたの非道さを改めて確信してみたり」などと言いつつも、打ち止めはどこまでも笑っていた。だから、と言うのは単なる言い訳なのだろう。負け惜しみのようなものかもしれない。けれど、だから、一方通行は打ち止めの言葉を投げ出したままにできない。
「……ナニがヒドイんだよ」
聞き返すと、一瞬光った目を隠すようにしかめ面を作る。そうして打ち止めは布団をかぶったままでこちらを指差してきた。テーブルの上から、というのもあわせて行儀の悪さが折り紙つきだ。直してやるべきだろうか、と柄にもないことを思っている一方通行の目の前で、子供の声が跳ねるように抗議を投げてくる。
「忘れたとは言わせないんだから!と憤慨してみたり。あなたわざわざかけ布団を結んだでしょう!ヨミサカが解いてくれなかったら窒息するとこだったんだからってミサカはミサカはすぐそこにあった危機をぶちまけてみる!」
「してねンだからイイじゃねぇか」
「そういう問題じゃなーい!」
鼻を鳴らしながら放った言葉にはまるで感銘を受けなかったことを示すように、テーブルの上の子供はごろごろと転がりだした。
「オイ、」
危ないぞ、と続けたかどうかは分からない。言うまでもなく、打ち止めが一方通行のベッドの上に勢い余って転がり落ちてきたからだ。ぎょっとした一方通行を気にする様子もなく、打ち止めは布団からガバリと顔を出すと、何事もなかったかのような調子で呟いた。
「あぁ、びっくりした」
「コッチのセリフだろゥよ……」
思わずしみじみとした一方通行の声に、打ち止めは子供らしからぬ目をこちらに向けてきた。もう、見慣れてしまったかのように、錯覚する。まだ短いときしか共に過ごしてなどいないのに。いつでも近くにあるような。
パッと音が開くように打ち止めが笑う。
「心配した?ねぇ、した?」
小首を傾げる姿は子供でしかなかったので、一方通行は安心して鼻を鳴らす。顔をそむけた一方通行だったが、次の言葉につい振り返ってしまった。
「ミサカはしたよ?」
笑みにも満たないような温度で、打ち止めは笑っていた。出そうになった舌打ちをこらえてため息になったのはいいのか悪いのか。
一方通行はグシャグシャと乱暴に茶色の紙を混ぜる。指の間にしなやかな糸が絡んで通り過ぎる。この感触も、暖かさも、本当は持っていていいものではないと、知っている。知っているんだ。それでも。
これこそ、持っていたい。知ってる。本当は知ってる。
「……どゥせ戻るトコなんてココくらいしかねェんだ。お前は黙って待ってりゃいいんだヨ」
ぶっきらぼうに放り投げた言葉だったのに、手の中の小さな子供は嬉しそうにはにかんだ。何故だ、と事態に眉をしかめる一方通行の顔を見て、打ち止めはますます笑みを深くする。
「あなたらしく遠まわしな言葉だけど、ちゃんと分かってるんだからねってミサカはミサカは聖母のような慈愛を込めて微笑んでみたり」
どこをどう見ても、宝箱のようにとっておきの悪戯を隠している子供の顔だ。しかしながら隠されているのは気分が悪い。「アンだよ?」と聞いてみると、わざとらしく肩を竦められた。
「もう、そんなプロポーズを照れなくてもいいのに」
「……アァ?アァア!?」
すごむ、という言葉そのものの顔つき目つきで睨み付けた一方通行には、ほとんど大部分の人類の恐怖が内蔵されていたはずだ。しかし打ち止めはびくともせずに手をひらひらとさせる始末だ。ピクピクとこめかみを引きつらせる一方通行をよそに、少女は嬉しげにくすくすと笑う。
「だって、お前は家を守れって聞いたことある。あれはプロポーズの歌って言ってたよ?」
あれできるって思わなかった。
言葉だけ聞けば、ただの子供の戯言である。しかしながら
「誰だよ、ンな古典的な歌聞ィてやがんのは!?」
思わず声を荒げた一方通行に向けて、
「秘密」
と微笑む目は油断ができない気がする。チラリと見つめ合ってから、しかし一方通行は疑惑を放り投げた。多分出てこない。どこを探しても、今はまだ。
だったら、もう少しここにいろよ。
一方通行は打ち止めの耳もとに顔を近づけると、
「アホゥ」
と呟いてそのまま細い肩に頭を乗せた。もちろん、体重をかけてである。
「あ、一方通行!?お、重い!重いんですけど!?ってミサカはミサカは改めて危機を訴えてみたり!?って、あー!」
ぎゃー!と喚きながら打ち止めがベッドに倒れる。布団に埋もれるようにして出した一方通行の喉を鳴らすような笑い声が、
届いたのかは知らない。今は。
作品名:約束しましょう 作家名:フミ