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うきぐもさなぎ
うきぐもさなぎ
novelistID. 8632
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海のアネモネ

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ゆらゆらたゆとう水に頬を撫でられて、タクトはぼんやり目を覚ます。
まだ覚めやらぬ彼の目に映るのは、モスグリーンの海草。紅色のサンゴ。蛍光色の小魚たち。
大きなあくびをひとつして、タクトは水のおもてに目を向けた。彼が見たのは黒髪の青年。あれは、スガタだ。

「それじゃあ行ってくるからね」

スガタは水の中に手を突っ込むと、タクトの髪にふわっと触れた。

「僕が学校から帰るまでおとなしく待っているんだよ」

おとなしく、なんて言われなくても、こんな場所に閉じ込められているのだから、おとなしく待っている以外ないじゃないか。そんなツッコミを胸の中に飲み込んで、タクトは、いってらっしゃい、という合図のようにちょろっと手を振ってみた。指先でタクトの頭を数回撫でてから、スガタは水から腕を引き抜いた。学校カバンをつかみ取り、彼は優雅に身をひるがえす。部屋から出て行くその前に、スガタはもう一度こちらを振り返り、鮮やかな微笑を投げて寄越した。

すらっとしたうしろ姿がドアのすき間に消えるまで、タクトは長いこと彼を見守っていた。スガタが完全に見えなくなってから、タクトはふーっと溜息をついた。
スガタが帰って来るまでの数時間。狭い水槽の中で、また退屈な時間が始まるのだ。

四方をアクリルガラスに囲まれたその水槽は、スガタの部屋の片隅に置かれている。タクトがそこで暮らすようになってから、そろそろ一週間。
水の中でタクトは、両腕をぐっと前に伸ばしてみた。その腕に目をやって、彼はふたたび溜息を吐く。彼の目に映ったのは、腕であって腕じゃない。かつて彼の腕や手だった部分は、今では見るも無残なかたちになっている――にょろにょろした半透明の物体――一般的に触手といわれるものに。
変化したのは、しかし腕だけじゃない。
170センチちょっとあった身長は、今ではほんの10センチ程度。ずんぐりした胴体はやわらかなばら色で、ひらひらした触手は、半分が赤で、半分が黄色。

「銀河美少年の名残りだね」

そう言ってスガタは、困ったように笑っていたっけ。

わけあって、タクトは海の生物に変えられてしまっていた――海のアネモネ、いわゆるイソギンチャクといわれる生き物に。

タクトをイソギンギャクに変身させたのは、ヘッドという男だ。彼はレシュバルのスタードライバー。ちょうど一週間前、彼とタクトは一戦交えた。

「見事なお手並み、おみそれしたよ」

笑顔のヘッドがそう言ってきたのは、戦闘の翌日のこと。タクトが海を眺めていると、ヘッドがこちらに歩み寄ってきた。

「君は素晴らしい銀河美少年だけれど、残念ながら呪いにかけられているようだね」

呪いって?
目を見張りタクトがそう問い返そうとした瞬間、目の前がふいに暗くなってしまった。

「君は知っていたかい?サイバディは戦士であり、同時に海の神殿に仕える騎士だということを。彼らは故郷の星への帰途に着くまで、この地に縛りつけられる呪いをかけられているんだ」

ぐるぐるする頭で聞いたのは、信じられないそんな言葉。

「呪いを解くためには、より沢山のリビドーが必要なんだよ」

呪いだって?
今、こうして無力になってしまったのも呪いだというのだろうか。
かすんだ視界で目を凝らせば、ヘッドの歪んだ笑みがぼんやり見える。
何か言い返してやろうと思ったものの、ぐらぐらする頭では、言葉が何も出てこない。
そのうち、タクトはからだのまわりに冷たい水の感触を感じていた。どうやら海に落ちたらしい。

「――タクト!」

遠ざかる意識の向こうで、タクトは自分の名を呼ぶ声を聞いた。
懐かしいあの声は、スガタのものだ。
あの時、スガタがあらわれてくれなかったら。そう考えてタクトは身を震わせる。自分の命はなかったかもしれない。こんな頼りない姿で大波に飲まれたのだから、決して大袈裟とは言えないだろう。たとえ命が助かったとしても、残る生涯、彼は海の中でさまようことになったに違いない。
ちっぽけなイソギンチャクになったこの自分、タクトを、スガタが見つけ出してくれたのは、ほとんど奇跡だ。
それにしてもスガタは、海に落ちた不運な自分をよくぞ見つけられたものだ。スガタはあの時の一部始終を浜で見かけていたのだろうか――タクトがイソギンチャクに変化させられる瞬間を?
それをタクトがスガタに尋ねるのは不可能だ。だってイソギンチャクになったタクトは、話をすることができなくなっていたから。イソギンチャクにとって、触手の中ほどにある口らしきものは、話しをするための道具ではない。それは食物を取り入れるためだけの器官なのだ。
スガタは海から拾い上げたタクトを、急いで家まで連れて行った。すぐさま水槽が用意され、タクトはその中にそーっと入れられた。



continue…
作品名:海のアネモネ 作家名:うきぐもさなぎ