ラブ!愛してるの!
いつもの習慣で無意識に携帯を手探りし、時間を確認すると示したのは ”7時5分”。
ぐぅ~というお腹の虫が催促しているが、僕は軽い空腹よりも先にまたかと頭を抱えたくなった。
「帝人君、起きたの?おはよう!あとスープをよそえば完成だから布団だけ隅に片付けてくれる?」
「....おはようございます....」
シンプルな黒のエプロンを付けて、お玉片手に話しかけてきたのは、新宿を拠点にしている(自称)最強で最高の情報屋...こと折原臨也...のハズ。。。
もう見慣れた光景に帝人は力なく挨拶を返すほかなかった。
実は、臨也がこうして帝人の家で朝食を作っているのは初めての事ではなく、すでに1週間たとうとしていた。
初めの頃は驚いたけれども、1週間もたった今では、またか...という諦めと、食費が今週大分浮いたなぁ~という微かな喜びしかない。
「昨日は和食だったから、今日は洋食ね。俺もどっちかというと洋食の方が好きだしね」
そういって、目の前の簡易テーブルに乗せられたのは見事すぎる朝食の数々だった。
ホカホカのクロワッサンにとろとろのスクランブルエッグ。バランスのとれたサラダにカットされた果物が沢山入ったヨーグルト。そして湯気を立てているオニオンスープ。
この一週間で見た目だけでなく、味も一級品だということを十分理解している帝人のお腹は正直で、またグゥーと静かにないた。
「...今日も美味しそうですね...」
「そりゃあ、もちろん。帝人君への愛をこれでもかと詰め込んでるからね!!」
(はいはい。あなたの大好きな人間ですからね)
内心でそんな事を思いつつ、静かに「いただきます」と手を合わせて食べ始めると、向かいの臨也さんが慌てたように「いただきます」と一緒に食べ始めた。
「あ...コレ美味しいですね」
「このスクランブルエッグにクリープ入れてるんだよ。お弁当の中の卵焼きには桜えび混ぜてあるからね」
「今日もお弁当あるんですね...ありがとうございます」
「もちろん!ずっと作ってあげるよ。愛しているからね!!」
「えぇ。わかってますよ。臨也さんの愛する人間ですもん、僕。だから人間でよかったと思います。臨也さんの作るご飯美味しいから大好きです。」
「ちょ、ちょっと待って!!確かに人間愛してるけど、帝人くんは違う意味で大好き!愛してるんだよ!!!」
あぁ...大事な駒を上手く使う為の計算なんだろうなぁ...必死に見える臨也さんの演技に心の中で拍手をしつつ、「ご馳走様」と食器をシンクに持っていく。
そのまま、今日は1時間目から体育があるから嫌だなぁと思いながら歯磨きをして準備を着々と進めていく。
後ろで騒いでいる臨也さんは完璧スルーだ。
「帝人君!帝人くんってば!俺は帝人君だから愛しているのであって、他の人間にはこんな感情もってないからね!帝人君ってば!聞いてる!?」
(よし準備完了。今日は委員会とかなかったよね?)
「俺は帝人君じゃないとこんな事しないんだよ?自慢じゃないけど、俺ってば男女関係なくモテモテなの!だから、自分からこんなふうに世話焼いたりしないんだよ。帝人君だからやりたいのであって...わかってくれるよね!!」
玄関から振り向いた僕に向かって、力強く求めてくる臨也さんに対して僕がいいたいのは一言だけだった。
「僕、学校行ってきますね。なぜか持ってる合鍵でしっかり戸締りしたら、その鍵郵便受けに入れて帰ってくださいね」
そういって、台所に置いてあるお弁当を持って学校に向かうべく歩き出した。
「ちょ、ちょっと!!あぁーーー!!もう!!帝人君!ラブ!愛してる!!いってらっしゃい。気を付けて行ってきてね!夕飯は鍋だから早く帰ってきてね!!」
バタンと閉められた扉に向かって虚しく臨也の声が響きわたった。
endless
endless...
男の叫びは少年には届かない...