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もかこ@久々更新
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novelistID. 3785
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「名前をつけてやる」・4

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「・・・・・・なぁ~。もう泣かねぇでくれよ。俺は、君を守りたくて・・・・・」
「ヴぇえぇっ、えっ、ひっ、ひっく・・・・ここ・・・・どこ・・・・?」
「とりあえずパリよりは遠いどこかだけどよ。俺は日本を目指してる。そこまで行けば少なくとも死なねぇ」
泣いてばかりいたフェリシアが、目を真っ赤にしながら彼を見つめてきて、うわぁ、と声を上げた。
生々しい傷痕。所々血のようなものが彼のシャツにこびりついていて、
フェリシアは今まで自分のことばかり考えて泣いていた自分を恥ずかしく思った。
こんなになるまで耐えて、自分を守ってくれていたのに。
ぽろぽろと零れていた涙を拭って、温かな手が触れてくる。
彼はひどく驚いた。
「ふぇ、フェリシアーノちゃん?い、いいぜ?俺、そのうち自己修復するからよ。」
「駄目だよ。ちゃんと手当てしないと、バイ菌入っちゃうよ?」
可愛らしい、普通の感覚。きっと人間は基本的に、みんなこう優しい生き物なのだろう。
傷を撫でる柔らかで温かい手が、堪らなく愛しくなる。
「俺な。人間じゃねぇんだ。機械なんだ。」
それにしても、どれくらい離れたところに来たのだろう。
ここがどこなのかはよく判らない。
どこか判らないところの、安いホテル。しかもピンクモーテルと来たもんで、
安くさいポリエステルの毛布はたったの一枚しか用意されていなかった。
そもそもホテルに泊まること自体珍しいことなので、彼はすぐ隣にいるフェリシアが不快でないか、何度も確認した。
何を考えているかは判らないが、温度計代わりの不快指数計はついている。
何故だかは、よく判らないが。
落ち着いてきたフェリシアを見て、彼はとつとつと喋り始めた。
「な、何言ってんの?意味判んないよ・・・・・」
破損してまだ中身が見える腕を見せてみるが、フェリシアはよく判らないようで。
そっと触れられると、配線を伝ってダイレクトに体温が届いて、熱いくらいだ。
フェリシアは訳が判らないその銀色の、皮膚の下に目眩がする気分だった。
ついさっきまで、人気のカフェのウエイトレスだった。
育ての親代わりの兄は、人気シェフ。
でも目の前にいるのは兄でも客でなくて、自分を機械だと言っている、頭がいかれてしまっているらしき男。
「ついでに言うとな。フェリシアーノちゃんの婆さんも父さんも母さんも、殺したの俺。
フェリシアーノちゃんの兄さんも爺さんも殺そうと思ってた。
見つからねぇから、先にフェリシアーノちゃんのところに行って、先に君を殺そうと思った。」
「そういうの、いらない。つまんないし。
大体じいちゃんはその道の人だったかもしれないけど、俺たち家族は違うから!
そういうのに巻き込まれて死んだ訳じゃ・・・」
「無くもねぇだろ?だって俺が殺したんだしよ。ジジイ一人殺せばいいってもんじゃねぇんだよ。」
何を言っているのだろう。
両親との記憶は、おぼろげにしかない。ちゃんと会話をする前に、フランシスのところで育った。
母は優しかったと思うし、父も愛してくれていたとは思う。
しかしあまりにも偉大な祖父の影に隠れて、わずかしか記憶にない。両親はどんな人間だったのか。
そうか。もう両親に会うことはないのか。
フェリシアは少し寂しい気分になった。
「そんなに恨まれるくらい、じいちゃんは酷いことをしたんだね。誰も生かしておきたくないって思うくらいなんだね。
きっとじいちゃんを恨んでる人は、すごく大事な人を殺されたんだね。」
あまりに薄い反応に戸惑う。予想では、酷いとか人殺しとか言われる予定だった。
カフェで雑談をしていたときのような笑顔は見られないが、それでも綺麗な瞳は相変わらず綺麗なままで。
見つめられている事実に胸が締め付けられているような気分だった。
何とか目を合わせてみるが、やっぱりは可愛い、うまく言葉にできない好みの顔に、思わず顔がにやけてしまう。
その瞬間、頬をぎゅっと引っ張られた。
「じゃあ何で、俺を助けてくれたの?」
相当変な顔になったのに、フェリシアは笑ってくれない。
それでも、この近さ、息遣いを直に感じる。
にやけてしまうのは、悪いことだろうか。
「君に惚れちまったから。」
「意味判んない。」
「へへっ。だよな、今自分のこと機械だって言ったばっかりなのによ、君が好きだなんてよ。」
「・・・・・もしかしてさ、君って、俺たちの一族を皆殺しにして回ってる、殺人鬼なの?」
「え?あー、うんうん。それ。てゆーか今言っ「ヴぇえええええええ!!!!やだっ、殺さないで!!」
おそっ。
泣いていたから、脳の処理能力が低下していたのか、事実を理解するのに、どれほどの時間がかかったのだろう。
「落ち着けって!殺さねぇよ、殺すんだったら、さっきやってるっつーの!」
「・・・・・そりゃそうだよね・・・・何で殺さないの?」
ドン引きされるのは、あまりにも悲しい。ということを、いつか生みの親、製造主が言っていた。
壁際まで逃げてしまっていたフェリシアを追いかけ抱き締める。
広くはないベッドの上、フェリシアは腕の中にすっぽりと収まった。
しかしさっきの冷静な瞳からは考えられない慌てぶり。
こういうのも、人間なのかと、ますます愛しくなった。
「君に恋しちまったから。」
「ロボットも恋をするの?」
「普通しねぇよ。でも俺は特別だからよ。ちんこあるからフェリシアーノちゃんとセックスも出来るぜ?」
「やだっ、しないよ!ロボットなのに下ネタまで言うの!?」
「俺はフェリシアーノちゃんとエッチしてぇなv」
「も~っ、しないってば!こっち来ないで!」
顔をぎゅ~っと押して離そうとしてくる、フェリシアは可愛かった。
十分離れてから、フェリシアがぼそりと口にする。
「じいちゃん、生きてるの?」
「あぁ、多分な。老衰とかで死んでねー限り生きてる。
俺は直接フェリシアーノちゃんの爺さん見たことねぇからよ、どんな人なのかとか知らねぇけど。
何でか判んねぇけどよ、主からの命令が聞けなくなっちまってるんだ。GPSも効かねぇしな。
だから多分、爺さんと会ってもよ、殺さねぇと思う。
俺、壊れちまったのかな。ははっ」
「壊れたとか、意味判んないよ・・・・」
しゅんとした表情になってしまって、彼はどうすればいいか判らなくなってしまう。
あまりに表情豊かで、ついていけない。処理能力は限界だ、どう対処すればいいのか。
俯くフェリシアをもう一度抱き締めて、その表情を伺うが、どうすればいいか、検討もつかなかった。
「なぁ、フェリシアーノちゃん・・・・」
「そうだ!俺、君の名前を聞いてないよ、ねぇ、名前は何て言うの?」
突然上がった顔に、慌てて避ける。
そのままぶつかっていればアゴにヒットだ、自分は痛くないが、きっと脳震盪を起こすレベルに痛いだろう。
名前。考えたこともなかった。
「俺?俺は・・・D1って呼ばれてたけど。」
「D1?変な名前。」
「名前っつーか、製造番号?個体識別番号。」
「何それ。ますます意味判んないよ。
じゃあ、名前つけてあげる。D1なんて、味気無いもんね。
ん~、ギルベルト。ねぇ、ギルベルトってどう?
かみさまに愛された名前だよ。」