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意外に…

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 ――――ドンッ!
 そこそこ強い肩への衝撃で多少よろめいたものの、踏ん張ってすぐに体勢を立て直す。そのタイミングで伸びてきた手をかわすと、今度は耳障りなダミ声と汚ねぇツバが飛んできた。
「てめぇ、何だそのタイド!」
「あぁ?」
「ヒトサマにぶつかっといて一言もなしか!あぁ?」
 本人目一杯すごんでいるつもりなのだろう。が、デカイ面の割りに顔のパーツがどれも小さいからか、まるで迫力が無い。睨みつけてくる様は、むしろ滑稽だった。
「聞いてンのかクソガキ!」
「あ〜スミマセンねぇ?んじゃ」
「っ待ちやがれ!」
「まだ何か?」
「謝ってすむと思ってンのか?ホゴシャ呼べ、保護者っ」
 言っていることがさっきと違う上に、筋も理屈もあったものじゃない。
 見た目からいてあからさまだが、やはりコレはチンピラの類なのだろう。
 そもそも自分は店のショーウィンドウを見るために立ち止まっていたのだがら、ぶつかってきたのは向こうの過失だ。相手にするのが面倒だと、あしらいがてらこっちが折れて(一応)謝ってやったというのに、これである。
(――――さて、ど〜っすっか……)
 人通りはそこそこあるショッピング街。好奇心や何やらでチラチラと視線だけを向けてくる周囲もうっとおしいが、目の前のコイツほどじゃあない。こっちが黙っている間に、がなり声の音量はだんだんとでかくなる一方だ。
「おい、聞いてンのか!?」
「……」
 チラリと一瞬視線を遣り、自分が求めているモノがあることを確認。そこで、一気に走り出した。
 走る先にいた他人が目玉をひんむいて飛びのくのと、後ろから必死に追い駆けて来る男の叫び声に、嗤う。嗤ったまま走り込んだのは、建物に挟まれた狭い路地だ。
「っはっ……よ〜やく、諦めた……か……!」
「ハッ、この程度で息切れかよ」
 
 ――――大したことねぇな、アンタ。
 
 距離を取れば、身長差を逆転させるのは容易い。ほんの少しアゴを上げてからかってやれば、勝手に向こうがそう思い込む。
 案の定、そいつはアッサリとキレた。
 ロクなボキャブラリーを持たないヤツの行動は、ある意味分かり易い。
 殴りかかってきたソイツの拳をよけて、ついでに例の急所を強めに蹴り飛ばす。
 あっけなく意識を飛ばしたらしいソイツは、泡を吹いて地面に落ちた。鈍い音がしたのは、その辺の石ころにどこかをぶつけたからだろう。
 あっけない。
 何ともつまらない幕切れだ。
「弱ぇくせに、ケンカ売ってんじゃねぇ〜よ」
 どうせ聞こえていないだろうと分かっていても、それは何となく口から出てきた。
 別に、ケンカは強いからするというものでもない。
 だが、弱いヤツから売られるケンカ程煩わしいモノもそうないのではないだろうか。これでは単なる弱い者イジメでしかない。
(くっだらねぇ〜……)
 ――――戻るか。
 いい加減転がっているだけのヤツの前に突っ立っているのにも飽きた。
(念の為、別の道を通って行った方が得策か)
 そう考えて、入って来たときとは逆の方向に体を向ける。
 
「――――不動?」
 
「……」
 いざ歩きだろうとした所で、背後から名前を呼ばれた。
 残念なことにすっかりと聞きなれてしまったこの声は、間違えようがない。
 厄介なヤツにあまり都合の良くない場面を見られたものだ――と溜め息を吐いて、仕方なく後ろを振り返る。
「一体どこの誰かと思えば、鬼道クンじゃねぇ〜の。何、買い物?」
「まあ、な……」
 ゴーグルを着けて眼球が隠れていても、分かる。向こうの視線が、自分たちの間で転がっている男に向けられていることは明らかだ。
「――――お前がやったのか?」
「ああ」
「そうか」
 さて、一体どんなくだらない説教が始まるのかと思いきや。
 何と向こうはそれ以上特にその話題には触れずに、「夕食の時間には遅れるなよ」と言って、さっさと立ち去って行った。
 ――――一瞬、柄にも無く思考が止まって。
 しばらくして、腹の底から奇妙なムズムズとした何かが這い上がってくる。
 気付いた時には、笑っていた。
 人通りが無いとは言え、外で、他人の目を気にすることなく腹を抱える様子は相当痛い。が、そんなことがどうでもいいくらいに、愉快だった。
 
 
「――――またか」
「よぉ」
 短い言葉で、わらう。向こうは、これ見よがしに溜め息を吐いて腕を組む。
 地面には30代前半の男が3人転がっていて、どいつもこいつも小刻みに震えながら蹲っている。
 そんな連中を一瞥して、また溜め息。
 冬だからか、吐く息は白い。
「言っとくけどよ、先に手を出したのは向こうだぜ?」
「――――正当防衛だと言いたいのか?」
「そ♪」
「……もう少し、場所を考えろ」
 呆れたような雰囲気で、サラリとそんなことを言う。
 これが、教授の覚えもめでたい優等生なのかと思うと、やっぱり奇妙な可笑しさがこみ上げる。
「――――鬼道クンてさ、実は相当やんちゃしただろ」
「何のことだ」
「おーこわこわ。――――鬼道クンとだけは殴り合いはしたくねぇな」
「ふん、よく言う」
 転がっている男たちには何も言わず通り過ぎる、その後姿を追う。
 一度も、振り返ることは無い。
 
 《終わり》
悪くないと思ったんだぜ?
作品名:意外に… 作家名:川谷圭