臆病者の大胆な恋
あまり広くはない1LKの敷居式のアパートの自室で盛大に溜息を吐いた。
自分の不甲斐無さ、情けないほどに意気地のない性格を恨んだ。
根性なし、今の自分はそう言われても言い返せないだろう。
他者から言われればそれはそれで頭に血が上るのが、まあいい。
だが、彼を知っている町の人々は知らないだろう。
『どうすりゃいんだ…』
池袋の喧嘩人形と言われ恐れられている彼が。
恋患いという、臆病の自火に責められてることを。
【臆病者の大胆な恋】
一世一代の何とか、人は人生で必ず一度くらいは思い切った挑戦をする。
その内容がなんであれいつかは訪れる出来事を人は必然とも呼んでいる。
それが今、自分に訪れていることを静雄は思い知った。
「ま、正臣っ」
喧嘩人形と言わずと知れた男・平和島静雄には恋人がいた。
紀田正臣。今は改名し、その面影を残した母校の後輩でもある少女だ。
静雄のアパートに来るや目の前に座らされて、二人で正座をして見つめあっていたのだが急に呼ばれた正臣は少しだけびっくりした様子で静雄に聞き返した。
「はい?」
「あの、よ」
「はい」
「その、なんだ…」
視線をあちらこちらへとして、モジモジしている静雄を見て正臣は首を傾げた。
何か話があるということは分かるが、それを聞こうにも静雄は未だ話しを出さない。
だから正臣もただ黙って静雄を待つしかなかった。
待っている間も、悪い話か良い話なのか、どっちだろうと。
そわそわとする静雄に触発され、こちらまで心臓が震えている。
そしてまた呼ばれた。
「正臣、」
「は、はい…」
「あー…やっぱり、何でもねぇ」
「なっ、これだけ引きずっておいてそれはなしですよ!」
未だ、あーだうーだと渋っている静雄に痺れを切らして正臣は言った。
それにうっ、と言葉を詰まらせて静雄は俯いた。とんだ根性なしである。
「いや、でもよ…」
「言いたいことがあるなら、言ってください!俺が気になります!!」
お互いの性格は良く分かっているからこそ、ダメなことをダメと言えるのだ。
はきはきと物を言う少女に毎度のことながら静雄は頭が上がらなかった。
そして今日もそれに助けられることになる。
一世一代の賭け、とでも言おうか。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて。
愛しい少女を見つめる。
「絶対幸せにします…俺と、結婚してください」
言い切ったと安堵の息を吐く間もなく、少女が自分の胸に飛び込んできた。
不意打ちだったが、それを難なく受け止めて少女からの言葉を待っていた。
心臓はドキドキしっぱなしだ。
けれど、彼女が放つ次の言葉に静雄はまた胸が高鳴ることになるのだ。
「不束者ですが、よろしくお願いします…!」
愛が愛を持ってやってきたように、はにかむ恋人。
恥ずかしそうに、でも、愛らしく笑う正臣につられて。
よっしゃああああああああ!と近所迷惑になる騒音さながら、少女に負けないとびきり幸せそうな笑顔で叫んだ。
fin.
静ちゃんて見るからに恋に奥手そうで…もじもじしてるから色んな人に助けてもらう感じがします。
見てらんないって、周りの人があれやこれやと世話を焼いてくれて遠回りしながら最後には幸せそうに笑ってるんですよね(脳内妄想)
Happy Birthday、Shizuo!