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ごめんなさいよりも大切な事

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「はぁ……もうどうしよう……」

 種島ぽぷらが出勤してきた事によって逃げるように休憩に入った伊波まひるは、溜息を吐き一人ごちた。
 罪悪感と自己嫌悪。その原因と要因。
 何も知らない小鳥遊宗太に自分勝手をぶつけてしまった事。
 せっかく褒めてもらえたのに、それを無碍にする行為をしてしまった事。
 それらがごちゃ混ぜになって先ほどからずっと尾を引いている状態だ。

「素直になるって、案外ムズカシイ」

 誰もいない、誰も聞いていない。
 けれど、言葉に出していないと自分が保てなくなりそうで怖い。
 その思いでまひるは椅子の上で膝を抱えて震えていた。

「今までだってあんな風に言われた事はあるのになぁ。何でだろう」

 気丈を装って明るい声色で言ってみても今はそれが虚しく響き。
 乾いてきたはずの涙が再び眦を不穏に濡らし始める。



「まひるちゃん、大丈夫?」
「……八千代さん?」

 どれ位の時間が経っただろうか。俯いて涙を耐えていたところで意識が少し遠くなっていたようだ。
 その姿を偶然にも通り掛かった轟八千代に見つかり、声を掛けられた。
 顔を上げ返事をする。悟られぬように涙を拭う事を忘れず。

「はい、大丈夫です。ちょっと寝ちゃってました」

 いくら笑顔で元気に言ってみても、きっと目は真っ赤で顔は蒸気しているだろう。
 それでも。この場を、このふわふわしたチーフを切り抜けるには充分だとまひるは思っていた。
 何か問われたところで、眠かったから目を擦った、顔を埋めていたので温度が上がった、それで押し通せるとそう思っていた。


「ごめんなさい、小鳥遊君の事?」
「……っ!」
「その、全部を見聞きしていたわけじゃないんだけど……何かあったみたいだから……」
「いいんです。私が悪いですから」

 まさかいきなり核心を突かれるとは思わずびくりと体を震わせてしまうものの。
 その後に続く言葉で確信を得ると早々に認めて謝罪に移る。

「だから、あの……ごめんなさい」
「まひるちゃんはどうしたいの?」
「私、殴っちゃったし酷い事も言っちゃったけど……出来れば小鳥遊君にもっときちんと謝りたい、です」
「そう。じゃあきっと次にしなきゃいけない事は解っているはずよ」

 一言一言その口調が優しく、まひるの弱った心を梳くようにしっかりと掬い上げていき穏やかに満たしていく。

「でも何を言えば良いのか……今は何を言っても空回っちゃいそうなんです」
「言葉にする必要はないんじゃない?」
「え……? じゃ、じゃあどうやって?」

 言葉にする必要はない。
 事ある毎に手が出てしまうまひるにとって言葉以外というのは、とても不思議な選択肢だ。

「あのねまひるちゃん、さっき小鳥遊君に後ろからぎゅっとしようとしていたでしょう? 私はそれで良いと思うの」
「え、ええー……何でですか……」
「杏子さんはぎゅっは友情の証って言っていたんだけど、私はぎゅっとされた時にそれ以上の気持ちがこもっていると感じたから、かしら」

 言いぶりから白藤杏子からされたのではなく、別の誰かからされたものだと推測でき。
 それが出来そうな、しそうな人物というと、ぶっきらぼうで優しい金髪長身のキッチンスタッフ、佐藤潤。
 そこから導き出される結論は、すっかりと想いが通じ合った二人の光景。
 この早計な一人合点はささくれだったまひるの心を柔和にしていった。

「言葉も大事よ。けどそれ以外でも想いは伝えられる、心がそこにあれば。おかしいかしら?」
「い、いいえ! そんな事ないです! ありがとうございます八千代さん。何だか元気が出てきました」

 想像以上の八千代のアドバイスにまひるは面を食らったものの、それはもちろん悪いものではなく。
 曇天の空に太陽光が射してきたような、晴々とする気分にいつの間にかなっていた。
 惜しむらくは佐藤と八千代の関係性に対する認識に語弊が残ったままだという事だが。


「仕事してきます。迷惑をかけてすみませんでした」
「うん。頑張って」

 お辞儀をして出て行ったまひるを見送る。
 元気が出て良かった、そう心の底から思う。
 八千代自身、自分の佐藤に対する心のモヤモヤや、好きな人がいるはずの佐藤の最近の行為には頭を悩ませてばかりだ。
 少し前にもぼんやりしていてみんなに迷惑を掛けた。

 そんな後だからこそ、誰かの力になりたいと、気持ちが迷走しているまひるの力になってあげたいと、そう心の底から思った。


「ごめんなさい……これも大切だけど、もっとしなくちゃいけないのは――――」

 八千代の思いは確かに届いていた。
 その目は赤くとも、涙はなく。
 その顔は赤くとも、笑みを湛えており。
 誰がどう見ようともまひるは力に溢れていたのだから。